玉島町並み保存地区

概要

岡山県倉敷市玉島にある玉島町並み保存地区は、かつての港町の歴史的な景観を今に伝えるエリアです。この地区は、1995年（平成7年）に岡山県の町並み保存地区として指定されました。エリアは大きく分けて、町並み重点整備地区と周辺景観保存地区からなり、具体的には新町（玉島中央町1丁目の一部）、仲買町（玉島阿賀崎の一部）、矢出町（玉島3丁目の一部）の三つの区域が含まれます。

玉島はもともと瀬戸内海に浮かぶ島々でした。江戸時代（元禄年間）に行われた新田開発によって堤防が築かれ、羽黒神社を中心に放射状に広がる独特な都市構造が形成されていきました。干拓が進む一方で、玉島港は北前船の寄港地や高瀬舟による内陸水運の拠点として機能し、物資の集散地として大いに繁栄しました。

現在も、当時の繁栄を偲ばせる町並みが残されており、特に虫籠窓や漆喰壁、なまこ壁といった特徴を持つ本瓦葺きの塗屋造りの商家や、堅固な土蔵などが数多く現存しています。

この歴史的な町並みは、1995年に岡山県町並み保存地区に指定されただけでなく、2017年（平成29年）4月28日には、倉敷市の「一輪の綿花から始まる倉敷物語～和と洋が織りなす繊維のまち～」の一部として、日本遺産にも認定されています。

歴史

始まり

玉島の港町としての歴史は、江戸時代初期に水谷勝隆が備中松山藩主となったことから始まります。彼は松山城下の外港として玉島港の建設を計画し、周辺の新田開発や問屋町の整備を進めました。特に高瀬通を開いて玉島と松山を結ぶ主要な水路を整備したことは重要でした。その後、2代、3代の水谷氏によって、高梁・新見方面への水運ルートも50年にわたり整備され、舟運の利便性が高められました。

1670年（寛文10年）には、玉島新田の西側に阿賀崎新田が完成し、その南東部に築かれた堤防上に宅地が区画されました。ここに商人が誘致され、新町が形成されていきます。翌1671年（寛文11年）には、柏島の丸山と羽黒山の間を繋ぐ新町堤防が建設され、港の基盤が固められました。

全盛期

新町の問屋街には、西国屋や大国屋（儒学者として知られる川田甕江の生家）をはじめとする43軒もの問屋が軒を連ね、活気に満ちていました。これらの問屋は仲買人を通じて、鰊粕や干鰯といった商品を盛んに取引していました。

1672年（寛文12年）に北陸と上方を結ぶ西回り航路が確立されると、玉島港は北前船の重要な寄港地としてさらに発展します。1676年（延宝4年）には、総社市山田出身の菊池重右衛門が阿賀崎の仲買町に移住し、新町の初代庄屋に就任しました。彼は問屋業者を積極的に誘致し、新町の土手の中央に道路を整備するなど、千石船が横付けできる港町としての基盤づくりに尽力しました。世情が安定した元禄年間には、開墾地での米作や綿作が増産され、玉島港の取扱量も増加しました。しかし、1702年（元禄15年）に水谷家が断絶すると、玉島は天領、丹波亀山藩、松山藩という三藩による分割支配となり、後の衰退の一因となります。

衰退期

栄華を誇った玉島港は、徐々に衰退期を迎えます。その主な理由としては、以下のような要因が挙げられます。

三藩による分割支配体制となり、統一的な発展が阻害されたこと。
取引される繰綿に水を入れて品質が悪化したことで、信用を失ったこと。
油物の取引が幕府によって統制され、主要な交易品の一つが扱えなくなったこと。
特に、九州の油物と備中産の綿との交換取引ができなくなったことが大きな打撃となったこと。
周辺に新たな港が開かれ、奥まった位置にある玉島港が浅瀬で大型船の利用に不便であることが際立ったこと。

これらの要因が重なり、新町の問屋数は激減しました。当初43軒あった問屋は、まず13軒が閉鎖し、18世紀後半には急速に減少。1774年（安永3年）には16軒、1779年には13軒にまで落ち込みました。特に、1756年（宝暦6年）に幕府が油物取引を全国的に統制したことは、玉島の主要な取引であった油物と綿の交換売買を停止させることになり、決定的な打撃を与えました。

現代

汽船の時代に入ると、玉島は地方の小さな港となりますが、1960年（昭和35年）以降、周辺に水島臨海工業地帯が発展・拡張されるに伴い、重要港湾である水島港地区に編入され、現在は水島港玉島港区として重要な役割を担っています。港湾としての機能は変化しましたが、歴史的な町並みは保存の対象となり、1995年には岡山県によって町並み保存地区に指定されました。さらに2017年には、倉敷市の繊維産業の歴史とともに、日本遺産「倉敷物語」の一部としてその価値が再認識されています。

新町

玉島町並み保存地区の中核をなす新町地区は、現在の倉敷市玉島中央町1丁目の一部にあたります。江戸時代初期に、港湾施設を整備するために海上に築かれた堤防の上に位置しており、港に面しているにもかかわらず、周囲より一段高い場所にあります。かつては周囲を水面に囲まれていたため、港と反対側の北側にも船着場の遺構が残されており、独特な地形を物語っています。

歴史的には、1671年に備中松山藩主水谷氏の普請を受けた大森氏による干拓事業で建設された堤防が、新町の基礎となりました。この堤防は、農地拡張だけでなく、松山藩の外港としての役割も担うべく、海上に港湾施設として整備されました。高梁川流域から多くの港問屋が移住し、港に面した堤防南側には蔵が、北側には店舗を構える問屋街が形成され、個性的な景観が生まれました。商業活動の活発化に伴い敷地が手狭になったため、何度も海が埋め立てられて町域が拡張されました。江戸・明治期を通じて、新町は問屋と仲買の中心地として、他の地区（仲買町、通町、常盤町など）との機能分担が見られました。

しかし、1938年（昭和13年）に新町北側の里見川の一部が埋め立てられたことで、周囲を水面に囲まれた特徴的な景観は失われました。近年は、伝統的な建築物が駐車場などに置き換えられる場所も見られるようになり、景観保全の課題も抱えています。

仲買町

仲買町は、新町の発展に伴って仲買人たちが周辺に移り住み、彼らを中心に栄えていった地域です。玉島阿賀崎の一部に位置し、歴史ある建物が点在しています。

この地区には、かつての繁栄を伝える様々な建物や施設が残されています。

菊池酒造: 代々庄屋を務めた菊池家が、明治期に酒造業を開業しました。江戸後期の国学者・歌人、近藤萬丈はこの家の出身です。
白神紙商店: 江戸中期に「越前屋」として創業し、明治初年に紙問屋として引き継がれました。
旧玉島信用組合: 1935年に建てられた建物で、玉島信用組合を経て、玉島商工会議所としても利用されました。
玉島味噌・醤油蔵: 仲買町から円通寺へ向かう道沿いにある蔵。かつて阿賀崎新田村の庄屋屋敷であり、村役場でもあった由緒ある場所です。
吉田畳店: 仲買町に残る建物の中でも特に古い歴史を持つとされています。
鴨方屋: 明治期に創業した呉服商です。
井手屋: 江戸から明治にかけて活躍した廻船問屋の建物。江戸中期の建築で、店舗や蔵に当時の姿がよく残されています。現在は肥料などを扱う会社として利用されています。
柳湯: 以前は「甕港座」という芝居小屋だったとも伝えられる公衆浴場です。

交通アクセス

JR新倉敷駅から:
JR山陽新幹線または山陽本線の新倉敷駅南口から、県道41号線を南へ約3キロメートルです。
新倉敷駅南口バスターミナルより、沙美・寄島線に乗車し、「玉島中央町」停留所で下車してください。

外部リンク

* みなと玉島空間（倉敷市役所玉島支所）

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