王寵恵

王寵恵：革命と法の狭間を歩んだ知性派の生涯

王寵恵（おうちょうけい、字：亮疇、1880年-1958年）は、清末民初、そして中華民国建国期に活躍した稀代の政治家にして法学者です。キリスト教牧師の家庭に生まれた彼は、幼少期から英語を学び、北洋大学堂法科を卒業後、上海、日本、そして欧米へと留学。イェール大学で法学博士号を取得し、イギリス弁護士資格も取得しました。ベルリン比較法学会にも所属し、ドイツ民法の英訳にも携わった、国際的に高い評価を得た法学の専門家でした。

革命への道

1904年、ニューヨークで孫文と出会った王寵恵は、孫文の主張を「中国問題の真の解決（The True Solution of Chinese Question）」として英訳し、革命運動に深く関わるようになりました。翌年には中国同盟会に加入。辛亥革命勃発時には、上海都督陳其美の顧問として革命に参加し、南京での各省代表会議では広東代表として副議長を務めました。

北京政府での活躍と政治的転換

中華民国臨時政府では外交総長に任命されますが、袁世凱との対立により辞職。その後は、孫文が設立した鉄路総公司顧問、復旦大学副校長などを歴任し、憲法研究に没頭しました。袁世凱の帝政への動きには反対の立場をとりました。

袁世凱死後、北京政府において法律編纂会会長、大理院院長などを歴任。1921年にはワシントン会議の全権代表として中国代表団の一員として参加しました。梁士詒内閣では司法総長に就任しますが、直隷派内部の対立により短命に終わった署理国務院総理の経験もあります。この間、胡適らと『我々の政治主張』を発表し、憲政と公開された政府の必要性を訴えました。

国際舞台と国民政府

1923年、王寵恵は常設国際司法裁判所の判事に就任。国際的な法学者としての地位を確立します。帰国後は、孫宝琦内閣で再び司法総長に就任、修訂法律館総裁も務めました。その後は国民党に転じ、北伐に参加、国民政府成立後は初代司法院長に就任しました。1929年には再び常設国際司法裁判所の判事に選出され、内外債整理委員会委員長も兼任しました。1931年には、中華民国訓政時期約法の制定を主導するなど、国民政府の中枢で活躍しました。

日中戦争と外交

日中戦争直前の1937年には、国民政府外交部長に就任。それまでの対日宥和政策を転換し、抗日声明を発表しました。日中戦争中は、外交の最前線で日本の侵略に立ち向かい、1941年まで外交部長として活躍。その後、国防最高委員会秘書長となり、カイロ会談にも出席しました。戦後も国際連合憲章制定会議に国民党代表として参加するなど、国際的な舞台で活躍しました。

最晩年

1948年には中央研究院院士に選出され、司法院長に再任されましたが、国共内戦の敗北により台湾に逃れました。1958年、台北で死去。

王寵恵は、革命家として、法学者として、そして外交官として、激動の中国近代史を生き抜き、その生涯は多様な側面を持ち合わせています。彼の業績は、中国の近代化と法治国家建設に大きく貢献したと言えるでしょう。彼の思想と行動は、現代においても学ぶべき多くの示唆を与えてくれるでしょう。

主要著作

『憲法評議』
『憲法危言』
『比較憲法』
『中國憲法平議』
『國民政府中華民國刑法』
（謝瀛洲編）『困學齋文存』

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