直隷派

直隷派：中華民国初期の軍閥、その興亡の ইতিহাস

直隷派（ちょくれいは）は、中華民国時代に存在した有力な軍閥の一つです。袁世凱の死後、彼の率いていた北洋軍閥が分裂する中で、馮国璋（ふうこくしょう）をリーダーとして台頭しました。その名前は、馮国璋が直隷省（現在の河北省）出身であることに由来します。

直隷派の成立と黎元洪との対立

1916年6月、袁世凱が死去すると、北洋軍閥は求心力を失い、分裂の様相を呈します。まず、国務総理として実権を握っていた安徽派（皖系）の段祺瑞（だんきずい）が政権を担いましたが、袁世凱の後継として大総統に就任した黎元洪（れいげんこう）との間で、激しい権力闘争（府院の争い）を繰り広げました。

この時期、直隷派の馮国璋は南京の留守居役という立場にあったため、中央政治からはやや距離を置いていました。しかし、黎元洪が段祺瑞を牽制する目的で、1916年10月30日に馮国璋を副大総統に任命したことで、事態は一変します。この人事を機に、馮国璋は中央政界での権力掌握を意識し始めました。

1917年7月、黎元洪が失脚すると、馮国璋は大総統代理に任命されます。しかし、同年9月に孫文（そんぶん）が広東軍政府を組織して中華民国からの独立を宣言すると、その対応を巡って国論は二分されます。国務総理の段祺瑞は武力征伐を主張したのに対し、大総統代理の馮国璋は武力行使に反対しました。これが「和戦の争い」と呼ばれる対立です。

結局、段祺瑞は、袁世凱死後の東北地方をまとめ上げた張作霖（ちょうさくりん）率いる奉天派（奉系）と連合して南征を強行。さらに、1918年の新国会（安福国会）での多数派工作にも成功し、馮国璋を大総統の地位から引きずり下ろすことに成功しました。

直隷派政権の確立と内部対立

1919年に馮国璋が病死すると、直隷派はさらに保定派（曹錕派）と洛陽派（呉佩孚派）に分裂します。彼らは馮国璋以上に権力欲が強く、他派との抗争に勝利して政権を握ろうとしました。直隷派政権は、奉天派との連立政権時代（前期）と、直隷派単独政権時代（後期）に分けられます。

1918年に直隷派が政権から降ろされて以降、政権を担っていた段祺瑞ですが、日本寄りの政策を過度に展開したため、五四運動など反日感情の高まりとともに、その声望は低下していきました。そこに目を付けた曹錕（そうこん）ら直隷派は、イギリス・アメリカの後押しを受けて、奉天派の張作霖と同盟を結び、1920年7月に直皖戦争（安直戦争）で段祺瑞率いる安徽派を破り、政権を奪取しました。

しかし、連立政権を樹立するには、直隷派（曹錕・呉佩孚）も奉天派（張作霖）も権力欲が強すぎました。結局、政権の主導権をどちらが握るかを巡って内部対立が激化し、1922年4月の第一次奉直戦争で直隷派が奉天派を破り、直隷派単独政権を樹立するに至りました。

直隷派単独政権の崩壊と北伐

北京政府の実権を握った直隷派でしたが、保定派の曹錕の政治的野心は、「実権」という裏方ではなく、「大総統」という表舞台を求めるものでした。しかし、洛陽派の呉佩孚（ごはいふ）は、直隷派単独で政権を維持するには支持層が少なすぎることを憂慮していました。当時の中国では、中央に大総統の徐世昌（じょせいしょう）が、南部・西部には国民党及び地方軍閥が、東北地方には奉天派の張作霖らが存在し、直隷派が北京政権を独占すれば、当然これらの勢力の反発を受けることは明らかでした。

そこで呉佩孚は、「誰もが納得する方策」を打ち出します。まず、1917年7月以降の安徽派主導の政治体制・国会運営を否定し、それ以前への回帰を宣言しました。これは国民党の主張に合致し、さらに安徽派時代に就任した徐世昌大総統を失脚させることも可能にするものでした。こうして後ろ盾を失った徐世昌は、1922年6月2日に大総統を辞職。その後、直隷派は1917年7月まで大総統の地位にあり、政治的に害のない黎元洪を再度大総統に据えました。

しかし、自身が大総統になることを望んだ曹錕は、1923年に黎元洪を辞任させ、自身が大総統に就任します。曹錕の露骨な権力欲に反対した諸派は「反直同盟」を結んでこれに対抗し、1924年に奉天派と再び争った際（第二次奉直戦争）、直隷派の馮玉祥（ふうぎょくしょう）が裏切ったこともあり、直隷派は敗北。曹錕は北京で軟禁され、北京政府の実権は奉天派へと移行しました。

直隷派の終焉

直隷派政権が崩壊した後、その政治力学の結果として、段祺瑞の執政府政権が成立しました。しかし、中国国民党が中国共産党との国共合作に踏み切り、国民革命を掲げて1926年に広州から北伐を開始すると、政権の立役者である馮玉祥と奉天派の張作霖が対立し始めます。この機に乗じた呉佩孚は、「反共・反国民党」を掲げて張作霖と結束し、中央政界への復帰を目指して北京に進攻。1926年4月には段祺瑞の政権も崩壊しました。

ここで呉佩孚と張作霖は再び連合して政権を確立しますが、政策的な食い違いから両者の足並みは揃わず、さらに1926年7月、地盤である華中を北伐によって失った呉佩孚は、同年末には力を失ってしまいます。

1928年、北伐が「北京占領」という形で完了し、北京政府が消滅したことで、直隷派は事実上消滅しました。かつて中華民国初期の政局を左右した直隷派は、内紛と外部からの圧力によって、その短い歴史に幕を閉じたのです。

もう一度検索