王忱 (東晋)

王忱（おう しん）

王忱（生年不詳 - 太元17年10月18日（392年11月18日））は、中国、東晋時代の官僚です。字は元達（げんたつ）。本貫は太原郡晋陽県（現在の山西省太原市一帯）です。

生涯

王忱は、王坦之（おう たんし）の四男として生まれました。幼い頃からその才能は高く評価され、王恭（おう きょう）や王珣（おう じゅん）といった当時の名士たちと共に、その名声を知られていました。官僚として様々な役職を歴任し、驃騎長史（ひょうきちょうし）という役職に就きました。

太元14年（389年）には、荊州刺史（けいしゅうしし）、都督荊益寧三州諸軍事（ととくけいよくねいさんしゅうしょぐんじ）、建武将軍（けんぶしょうぐん）、仮節（かしょう）という要職を任され、荊州へ赴任しました。荊州は現在の湖北省一帯にあたり、軍事・行政の両面で重要な地域でした。

太元17年10月辛亥（392年11月18日）、王忱は在官のまま亡くなりました。死後、右将軍（うしょうぐん）の位を追贈され、諡（おくりな）として穆（ぼく）が贈られました。

人物・逸話

王忱の叔父である范寧（はんねい）は、張玄（ちょう げん）と親交がありました。范寧は王忱と張玄を引き合わせ、語り合う機会を設けようとしました。張玄は礼儀正しく正座し、王忱の発言を待っていましたが、王忱は何も言いませんでした。失望した張玄はそのまま立ち去ってしまいました。范寧は王忱を責め、「張玄は呉中の優れた人物なのに、どうして語り合わなかったのか」と問いただしました。王忱は笑って答えました。「張祖希（張玄の字）が私と知り合いたいのであれば、自ら訪れるべきでしょう」と。范寧が「おまえの風流と名声ぶりは、まことに後世においても抜きん出ているな」と言うと、王忱は「この叔父がいなければ、どうしてこの甥がありえましょうか」と答えました。范寧がこの話を張玄に伝えると、張玄は改めて束帯（そくたい）という正装を身につけ、王忱のもとを訪れました。こうしてようやく二人の対談が実現したのです。

王忱は、王澄（おうちょう）という人物の人となりを深く慕っていました。王澄は西晋時代の人物で、清廉潔白で豪放磊落な性格だったと伝えられています。

王忱は、若い年齢で荊州刺史という重要な役職に就いたため、当時の人々からはその統治能力を不安視する声も上がっていました。しかし、王忱は荊州において綱紀粛正を徹底し、安定した統治を実現しました。当時、桓玄（かん げん）が江陵（こうりょう）で勢力を拡大していましたが、王忱はこれを抑制しました。桓玄も王忱を畏怖し、服従していたと伝えられています。

王忱は、常識にとらわれず、気ままに振る舞うことを好みました。晩年は酒を愛し、一度飲み始めると一ヶ月以上も素面に戻らないことがありました。裸で町を散歩することもあったようです。3日間酒を飲まないと不機嫌になり、肉体的にも精神的にも不調を覚えるほどだったと言われています。

参考文献

* 『晋書』巻75 列伝第45

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