范寧

范寧：東晋の儒学者とその波瀾万丈な生涯

范寧（字は武子、生没年不詳）は、東晋を代表する儒学者であり、官僚、そして教育者として名を馳せた人物です。南陽郡順陽県を本貫とし、范汪の子として誕生しました。

若き日から勉学に励み、多くの書物を渉猟した范寧は、その博識さで知られるようになります。会稽王司馬昱が輔政の任に就いた際には、その才能を高く評価され招聘されそうになりました。しかし、桓温の反対により、この機会は失われます。桓温は范寧の父、范汪を憎んでおり、その影響から范寧兄弟は桓温の存命中は官職に就くことができませんでした。

桓温の死後、ようやくその才能が開花します。范寧は初任として余杭県令に任じられ、赴任後はすぐに学校を設立。儒教に基づいた教化に力を注ぎました。6年にわたる県令在職期間の後、臨淮郡太守に転出し、陽遂郷侯に封じられます。その後、建康に召還され、中書侍郎に任じられました。

新廟の造営にあたっては、辟雍や明堂の制度に関して、経伝の典拠を基にした詳細な奏上を行いました。孝武帝は文学を愛好していたため、范寧は帝の信頼を得て、朝廷で疑義が生じた際にはしばしば諮問を受けるようになります。朝臣を批判する際にも、決して遠慮することなく、自身の考えを直言しました。

しかし、范寧の順風満帆な官途は長くは続きませんでした。范寧の甥である王国宝が会稽王司馬道子に媚びへつらい、范寧の批判を恐れて、彼を排斥しようと画策していたのです。この状況を察知した范寧は自ら豫章郡太守の職を志願します。孝武帝は翻意を促しましたが、范寧の強い意志を受け入れ、豫章郡太守に任命しました。

豫章郡太守として、范寧は精力的に政治改革に取り組みました。土断の実行や小規模郡県の統合を上奏し、また、当時の年齢制度（16歳以上を全丁、13歳から15歳を半丁）を見直し、20歳以上を全丁、16歳から19歳を半丁とするよう提案しました。この提案は孝武帝によって受け入れられました。

さらに范寧は、豫章郡に庠序（学校）を設立し、交州から磬石を取り寄せ、郡内の名家の子供たちを学生として、五経の教育に尽力しました。しかし、その功績とは裏腹に、江州刺史の王凝之から弾劾を受け、罪に問われてしまいます。この時、息子の范泰は天門郡太守の職にありましたが、父のために官職を捨てて弁護に立ち上がりました。孝武帝は范寧の教育における功績を高く評価していたものの、判決を下すことができずにいましたが、最終的には大赦によって免官で決着することとなりました。

免官後は丹陽郡に隠居し、経学の研究に余生を費やしました。そして、63歳でその生涯を終えました。主な著書として『春秋穀梁伝集解』を残しています。范寧の生涯は、学問への飽くなき探求心と、教育への深い情熱、そして揺るぎない正義感によって彩られたものでした。その功績は、『晋書』巻75列伝第45に伝えられています。

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