王承恩

王承恩は、明朝末期の動乱期に、崇禎帝に仕えた宦官です。彼の出自は順徳府邢台県にあり、その正確な生年は不明です。当時の明朝は、内政の混乱が深刻化し、宦官による汚職や賄賂が横行していました。多くの宦官が私利私欲に走り、忠誠心を失う中で、王承恩は目立たぬ存在ながらも、崇禎帝に忠実でした。

1644年、李自成率いる反乱軍が北京に迫ると、多くの宦官が李自成の誘いに乗り寝返る中、王承恩は断固としてこれを拒否しました。「国の滅亡は避けられないでしょう。しかし、陛下のお世話を最後まで行う者も必要でしょう」と述べ、崇禎帝への忠誠を貫きました。

李自成軍が北京を包囲すると、文武百官までもが崇禎帝を見捨て、次々と反乱軍に降伏する中で、王承恩はただ一人、崇禎帝のもとに駆けつけました。崇禎帝が紫禁城を離れ、景山へと向かう際にも、王承恩は最後まで付き従いました。

崇禎帝は、自らの最期を悟ると、皇子たちの逃亡を手配しました。王承恩は、皇子たちが逃亡できるよう、粗末な着物を用意し、逃亡先を手配するなど、様々な手配を行いました。また、崇禎帝が娘の長平公主を斬った際には、まだ息があることを確認し、侍女に手当てをさせて密かに落ち延びさせるなど、最後の最後まで皇帝と皇族を守ろうとしました。

崇禎帝が景山で自害すると、王承恩は皇帝の隣で首を吊り、殉死しました。彼の忠誠心は、多くの人々の心を打ちました。

その後、李自成の命令で、天寿山に皇貴妃田秀英の墓が開かれ、崇禎帝と周皇后が合葬されました。この陵墓は、現在も思陵として残っています。王承恩もまた、思陵の側に附葬され、その忠義を称えられています。

一般的に宦官は、汚職や裏切りといった負のイメージを持たれがちですが、王承恩は、皇帝に殉じた忠臣として、その名を歴史に刻みました。彼の墓は、崇禎帝の墓の近くに位置し、亀趺碑が建てられています。朝鮮王朝や江戸幕府でも、彼の忠烈は高く評価されました。王承恩の生涯は、混迷を極めた時代にあっても、忠義を貫いた人物の模範として、後世に語り継がれています。

参考文献には『十八の子 李巌と李自成』（小前亮）があります。

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