王溥 (明)

王溥（おう ふ）は、元末から明初の動乱期に活躍した軍人であり、その生涯は激動の時代を色濃く反映しています。彼の正確な生没年は不明ですが、饒州安仁県（現在の江西省）の出身であることが記録されています。

元末の動乱と陳友諒への仕官

王溥は、元朝末期に各地で反乱が頻発する中、陳友諒に仕え、平章という要職に就きました。彼は建昌（現在の江西省永修県）の守備を任され、その軍事的な才能を発揮します。朱元璋率いる軍勢が建昌を攻め寄せた際、王溥はこれを撃退し、さらに朱元璋の将軍、朱亮祖が安仁港から攻撃を仕掛けてきた際にも勝利を収めるなど、その実力を示しました。これらの戦いから、王溥が優れた武将であったことが窺えます。

朱元璋への降伏と明朝への貢献

状況が大きく変わったのは、至正21年（1361年）のことです。陳友諒の部将である李明道が信州に進攻した際、王溥の二人の弟が李明道の軍中にいました。しかし、彼らは胡大海によって捕らえられ、その後、李文忠のもとに送られました。李文忠は、捕らえた二人を通じて王溥を朱元璋の陣営に誘いました。この時、朱元璋は江州を攻略し、陳友諒は武昌に逃れていました。王溥は、情勢を見極め、使者を送って朱元璋に降伏しました。朱元璋は、その降伏を受け入れ、王溥を以前と同じように建昌の守備に当たらせました。

翌年、朱元璋が龍興に宿営した際、王溥は朱元璋と面会し、その労をねぎらわれました。朱元璋は王溥を気に入り、彼を応天府（現在の南京市）に連れ帰りました。王溥には聚宝門の外に邸が与えられ、その邸のある通りは「宰相街」と呼ばれるようになりました。その後、王溥は、明朝に帰順していなかった撫州や江西の州県の攻略に派遣され、その軍事的才能をいかんなく発揮しました。さらに、至正23年（1363年）には、武昌攻略戦にも参加し、中書右丞という高位に昇進します。洪武元年（1368年）には、詹事府副詹事も兼任し、徐達の北伐にも従軍し、各地で功績を上げました。その後、河南行省平章に任命されましたが、実務は担当しなかったようです。

王溥の死と子孫

王溥の詳しい没年は不明ですが、彼が死去した後、その子孫は指揮同知の位を世襲しました。これにより、王溥の家系は明朝において一定の地位を保ち続けたことがわかります。

母親との感動的な再会

王溥には、仕官する前に母親の葉氏と兵乱を避けて貴渓に逃れたものの、離れ離れになってしまったという逸話が残されています。18年後、夢で母親の居場所を知った王溥は、墓参りをしたいと洪武帝に願い出ました。帝の許可を得て、祭物を持たせてもらい、王溥は兵を率いて貴渓に向かいました。しかし、母親の手がかりはなかなか得られず、昼夜を問わず泣き暮らしました。そんな中、住人の呉海が「夫人は賊に追われて井戸に身を投げて亡くなった」と証言しました。王溥が井戸にたどり着くと、1匹の鼠が井戸から飛び出し、王溥の懐に飛び込んで、また井戸に戻っていきました。井戸を浚ったところ、そこに母親の遺体が見つかりました。王溥は悲しみにくれながらも、母親の遺体を棺に納め、その地に葬りました。この話は、王溥の親孝行の心を表すとともに、当時の戦乱の悲惨さを物語っています。

参考文献

王溥の事績は、『明史』巻134 列伝第22に詳しく記述されています。この史料は、王溥の生涯を理解する上で重要な情報源です。

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