胡大海
胡大海（こ たいかい、生年不詳 - 1362年）は、元末期に活躍した軍人であり、字を「通甫（つうほ）」と称しました。現在の安徽省泗県にあたる虹の出身で、朱元璋に仕え、その勢力拡大に大きく貢献しました。彼の生涯は、数々の戦功と、その人柄を示す逸話に彩られています。
朱元璋が挙兵すると、胡大海は滁陽（現在の安徽省滁州市）で朱元璋に謁見し、その配下となりました。彼は前鋒（ぜんぽう）を命じられ、各地の攻略戦で先頭に立って活躍しました。その功績が認められ、右翼統軍元帥に任命され、朱元璋の本陣を守る重要な役割を担いました。さらに、副判官として鄧愈（とうゆ）と共に徽州（きしゅう、現在の安徽省黄山市周辺）を攻め、これを平定しました。
1357年には、苗族の指導者である楊完者（ようかんしゃ）が10万の大軍を率いて攻めてきました。胡大海は鄧愈との挟撃作戦でこれを見事に撃破し、3千人の捕虜を得るという大勝利を収めました。さらに、鄧愈、李文忠（りぶんちゅう）と共に建徳（けんとく、現在の浙江省杭州市建徳市）に侵攻してきた楊完者軍を破り、建徳を攻略。これにより3万人が降伏するという大きな戦果を上げました。この功績により、胡大海は枢密院判官（すうみついん はんがん）に昇進し、その後、蘭渓（らんけい、現在の浙江省金華市蘭渓市）と婺州（ぶしゅう、現在の浙江省金華市）を攻略し、枢密院事（すうみついんじ）に進みました。
その後、沈勝（ちんしょう）という者が一度は降伏したものの、再び朱元璋に反旗を翻したため、胡大海はこれを打ち破り、4千人を捕虜としました。紹興（しょうこう、現在の浙江省紹興市）に移ると、張士誠（ちょうしせい）との戦いで活躍。張士誠の将である呂珍（りょちん）が攻めてきた際には、胡大海は救援に駆けつけました。呂珍は城を水攻めにしていましたが、胡大海は逆に堰を奪い、呂珍軍を水浸しにするという奇策で勝利しました。戦意を失った呂珍軍は散り散りとなり、胡大海は彼らを許しました。郎中の王愷（おうがい）が追撃を主張しましたが、胡大海は「軍としての体をなしていない敵を追撃するのは武人のすることではない」と退けました。この寛大な処置は、人々に彼の威信を深く印象づけました。耿再成（こうさいせい）と共に処州（しょしゅう、現在の浙江省麗水市）を攻め、石抹宜孫（せきまつぎそん）を敗走させました。
しかし、1362年、胡大海の配下であった蔣英（しょうえい）、劉震（りゅうしん）、李福（りふく）が降伏してきたことが彼の運命を大きく変えることになります。胡大海は彼らの武勇を気に入り、自身の麾下に置きましたが、この3人は実は謀反を企てていました。彼らは胡大海を八詠楼（はちえいろう）での弓矢の競技会見物に誘い出し、その最中に蔣英の手の者が、蔣英の罪状を訴えるという芝居を仕掛けました。胡大海が蔣英に振り返った瞬間、蔣英は隠し持っていた鉄槌で胡大海の頭を打ち、彼は即死しました。同行していた次男の胡関住（こかんじゅう）、王愷も殺害され、蔣英は城内を略奪した後逃走しました。
胡大海の死後、越国公（えつこくこう）を追贈され、武荘（ぶそう）と諡（おくりな）されました。その功績を称え、功臣廟に肖像が奉られました。
胡大海は背が高く、知力にも優れていました。用兵術にも長けており、数々の戦で勝利に貢献しました。彼は常に「私は武人であり、学問のことはわからない。しかし、3つのことは知っている。一つ、むやみに人を殺さないこと。二つ、婦女を奪い取らないこと。三つ、家を燃やさないこと」と語っていました。彼の率いる軍は、略奪や暴行を行わなかったため、多くの人々が彼に服しました。胡大海の死を聞いて涙を流さない者はいなかったと言われています。
また、胡大海は常に優れた人材を求めており、劉基（りゅうき）、宋濂（そうれん）、葉琛（ようしん）、章溢（しょういつ）らが朱元璋に仕えるようになったのは、胡大海の招聘によるものでした。彼の人物眼と、人材を重視する姿勢がうかがえます。
朱元璋が禁酒令を出していた際、胡大海の長男がこれを破ったことがありました。朱元璋は激怒し、刑を執行しようとしました。当時、胡大海は紹興に転戦中でしたが、朱元璋は「胡大海がこの件で私に叛いたとしても、わが法令を疎かにはできない」として、胡大海の長男を自ら処刑しました。次男の胡関住は胡大海と共に殺されたため、直系の後継者が途絶えましたが、養子の胡徳済（ことくさい）が後を継ぎました。
白寿彝（はくじゅい）の著書『中国通史』には、胡大海が回族（かいぞく、イスラム教を信仰する中国の少数民族）であったという記述があります。この点は、彼の出自を考察する上で興味深い情報と言えるでしょう。
胡大海は、その優れた武将としての才能と、人徳によって、多くの人々に慕われました。彼の生涯は、元末の動乱期における一人の武将の生き様を示すとともに、その悲劇的な最期は、人々に深い印象を与えました。
生涯
朱元璋が挙兵すると、胡大海は滁陽（現在の安徽省滁州市）で朱元璋に謁見し、その配下となりました。彼は前鋒（ぜんぽう）を命じられ、各地の攻略戦で先頭に立って活躍しました。その功績が認められ、右翼統軍元帥に任命され、朱元璋の本陣を守る重要な役割を担いました。さらに、副判官として鄧愈（とうゆ）と共に徽州（きしゅう、現在の安徽省黄山市周辺）を攻め、これを平定しました。
1357年には、苗族の指導者である楊完者（ようかんしゃ）が10万の大軍を率いて攻めてきました。胡大海は鄧愈との挟撃作戦でこれを見事に撃破し、3千人の捕虜を得るという大勝利を収めました。さらに、鄧愈、李文忠（りぶんちゅう）と共に建徳（けんとく、現在の浙江省杭州市建徳市）に侵攻してきた楊完者軍を破り、建徳を攻略。これにより3万人が降伏するという大きな戦果を上げました。この功績により、胡大海は枢密院判官（すうみついん はんがん）に昇進し、その後、蘭渓（らんけい、現在の浙江省金華市蘭渓市）と婺州（ぶしゅう、現在の浙江省金華市）を攻略し、枢密院事（すうみついんじ）に進みました。
その後、沈勝（ちんしょう）という者が一度は降伏したものの、再び朱元璋に反旗を翻したため、胡大海はこれを打ち破り、4千人を捕虜としました。紹興（しょうこう、現在の浙江省紹興市）に移ると、張士誠（ちょうしせい）との戦いで活躍。張士誠の将である呂珍（りょちん）が攻めてきた際には、胡大海は救援に駆けつけました。呂珍は城を水攻めにしていましたが、胡大海は逆に堰を奪い、呂珍軍を水浸しにするという奇策で勝利しました。戦意を失った呂珍軍は散り散りとなり、胡大海は彼らを許しました。郎中の王愷（おうがい）が追撃を主張しましたが、胡大海は「軍としての体をなしていない敵を追撃するのは武人のすることではない」と退けました。この寛大な処置は、人々に彼の威信を深く印象づけました。耿再成（こうさいせい）と共に処州（しょしゅう、現在の浙江省麗水市）を攻め、石抹宜孫（せきまつぎそん）を敗走させました。
しかし、1362年、胡大海の配下であった蔣英（しょうえい）、劉震（りゅうしん）、李福（りふく）が降伏してきたことが彼の運命を大きく変えることになります。胡大海は彼らの武勇を気に入り、自身の麾下に置きましたが、この3人は実は謀反を企てていました。彼らは胡大海を八詠楼（はちえいろう）での弓矢の競技会見物に誘い出し、その最中に蔣英の手の者が、蔣英の罪状を訴えるという芝居を仕掛けました。胡大海が蔣英に振り返った瞬間、蔣英は隠し持っていた鉄槌で胡大海の頭を打ち、彼は即死しました。同行していた次男の胡関住（こかんじゅう）、王愷も殺害され、蔣英は城内を略奪した後逃走しました。
胡大海の死後、越国公（えつこくこう）を追贈され、武荘（ぶそう）と諡（おくりな）されました。その功績を称え、功臣廟に肖像が奉られました。
人物・逸話
胡大海は背が高く、知力にも優れていました。用兵術にも長けており、数々の戦で勝利に貢献しました。彼は常に「私は武人であり、学問のことはわからない。しかし、3つのことは知っている。一つ、むやみに人を殺さないこと。二つ、婦女を奪い取らないこと。三つ、家を燃やさないこと」と語っていました。彼の率いる軍は、略奪や暴行を行わなかったため、多くの人々が彼に服しました。胡大海の死を聞いて涙を流さない者はいなかったと言われています。
また、胡大海は常に優れた人材を求めており、劉基（りゅうき）、宋濂（そうれん）、葉琛（ようしん）、章溢（しょういつ）らが朱元璋に仕えるようになったのは、胡大海の招聘によるものでした。彼の人物眼と、人材を重視する姿勢がうかがえます。
朱元璋が禁酒令を出していた際、胡大海の長男がこれを破ったことがありました。朱元璋は激怒し、刑を執行しようとしました。当時、胡大海は紹興に転戦中でしたが、朱元璋は「胡大海がこの件で私に叛いたとしても、わが法令を疎かにはできない」として、胡大海の長男を自ら処刑しました。次男の胡関住は胡大海と共に殺されたため、直系の後継者が途絶えましたが、養子の胡徳済（ことくさい）が後を継ぎました。
白寿彝（はくじゅい）の著書『中国通史』には、胡大海が回族（かいぞく、イスラム教を信仰する中国の少数民族）であったという記述があります。この点は、彼の出自を考察する上で興味深い情報と言えるでしょう。
胡大海は、その優れた武将としての才能と、人徳によって、多くの人々に慕われました。彼の生涯は、元末の動乱期における一人の武将の生き様を示すとともに、その悲劇的な最期は、人々に深い印象を与えました。
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