王潮

王潮：閩の礎を築いた知略家

王潮（おう ちょう、846年 - 898年）は、五代十国時代の閩の初代王である王審知の兄であり、その治世の基礎を築いた重要な人物です。字は信臣。彼は光州固始県（現在の河南省信陽市固始県）の出身で、唐末の動乱期に卓越したリーダーシップと知略を発揮し、福建地方の安定と発展に大きく貢献しました。

入閩以前

王潮は、弟の王審邽・王審知とともに、その才能と度量から郷里で「三龍」と称えられていました。中和元年（881年）には、寿州の首領である王緒に軍正として仕え、資材管理の公正さによって兵士たちの信頼を得ました。

当時の中国は、蔡州の流賊である秦宗権が勢力を拡大し、社会は混乱していました。王緒は秦宗権に従って光州刺史に任じられましたが、秦宗権の軍事召集に応じなかったため、その攻撃を受けることになります。中和5年（885年）、王緒は劉行全（王緒の妹の夫）らとともに軍を率いて南方の福建方面へ逃走し、王潮兄弟もこれに従いました。

逃避行の途中、秦宗権の追撃を恐れた王緒は、軍中の老幼者を処刑しようとしました。王潮兄弟の老母もその対象となりましたが、王潮らは老母の前に自分たちを処刑するように訴え、諸将もこれに同調したため、王緒は最終的に処刑を断念しました。また、軍中に「暴気」があるという術師の言葉を信じた王緒は、勇猛な兵士たちを次々と処刑し、副将の劉行全も粛清しました。王潮らは王緒の猜疑心に反発し、南安で反乱を起こして王緒を捕らえました。軍は王潮を新たな指導者として推しましたが、王潮は固辞し、弟の王審知を推挙しました。しかし、王審知は兄である王潮に首領の地位を譲り、自身は副将となりました。王潮は「天子が苦難に遭われている。広州へ向かい、巴蜀に入って王室を助けよう」と兵士たちに呼びかけ、南へと進軍を開始しました。

福建の掌握

泉州では、刺史の廖彦若が暴政を行っており、住民は苦しんでいました。泉州の有力者である張延魯らは、王潮の軍規が厳正であることを知り、王潮を迎え入れて泉州の州将となるように懇願しました。王潮はこれに応え、泉州を包囲し、1年に及ぶ包囲戦の末に泉州を攻略し、廖彦若を殺害して泉州を拠点としました（光啓2年（886年）8月）。

当時、建寧には陳巌が拠点を築き、福建観察使に任じられていました。王潮は陳巌に使者を送り臣従を誓い、泉州刺史に任じられました。大順2年（891年）、陳巌が重病に倒れると、王潮を呼び出して軍政を委託し、その後死去しました。陳巌の妻の弟である范暉は、将士を買収して福建留後に推薦させようとしましたが、陳巌の腹心の将たちは王潮こそが後継者にふさわしいと進言しました。そこで王潮は、従弟の王彦復と弟の王審知に命じて福州を攻撃させました。范暉は、縁戚関係にあった浙東の威勝軍節度使董昌に援軍を求めましたが、王彦復らの急襲を受け、援軍の到着を待たずに景福2年（893年）5月に城を捨てて逃走し、福州は王潮の手に落ちました。

王潮は福州に入城して福建留後を称し、陳巌を丁重に葬り、遺族を手厚く遇しました。その後、福建各地の軍閥が次々と王潮に臣従し、同年9月には唐朝から正式に福建観察使に任じられました。乾寧元年（894年）には、黄連洞蕃（少数民族）が汀州を包囲しましたが、王潮は部将の李承勲を派遣してこれを打ち破り、福建全土を平定しました。乾寧3年（896年）9月には威武軍節度使に封じられ、検校尚書左僕射を拝命しました。

王潮は、学校を設立し、流民を郷里に呼び戻し、租税を定め、官吏に州県を巡回させて農業を奨励し、近隣諸勢力と友好関係を結びました。これにより、福建の治安は安定し、民は平和な生活を送ることができました。

乾寧4年の冬に病に倒れ、12月6日（898年1月2日）に亡くなりました。唐朝から司空が追贈され、弟の王審知がその地位を継承しました。

評価

『十国春秋』によれば、王潮は沈着冷静で知謀に優れ、弟の王審知と互いに信頼し合っていたと記されています。亡くなる際、王延興・王延虹・王延豊（王審知の養子）・王延休らの子がいましたが、最も才能豊かな王審知に全てを託して逝きました。王審知は初代閩王として善政を敷き、人々は王潮の人物を見る目に感服したと言われています。開平年間には、王潮を祀る廟が建てられ、「水西大王」と称えられました。

王潮兄弟は、中原から多くの一族を率いて移住したため、現在でも福建、台湾の王姓の始祖として崇敬されています。


参考文献
* 清・呉任臣『十国春秋』巻90・閩1・司空世家

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