観察使

観察使（かんさつし）

観察使は、中国の唐代に始まり、李氏朝鮮、日本の平安時代初期に設置された地方行政を監察するための官職です。唐と日本では律令に規定されない令外官であり、李氏朝鮮では国王直属の機関でした。各地域における役割や変遷について詳しく解説します。

中国

観察使は、唐代に始まった官名で、もとは採訪使と称されていました。別名として、観察、廉車正使、廉車、廉使、廉査とも呼ばれます。唐の玄宗時代に一種の監察官として設けられ、御史に近い役割を担っていました。その後、軍事・行政の官職へと変化しました。明代・清代には、道員の雅称として観察使の名称が用いられました。

唐

唐代の初期には、巡察使や按察使といった官が不定期に派遣され、各地を監察していました。玄宗の開元21年（733年）に採訪処置使（略称: 採訪使）が設けられ、各郡県の官吏の成績を観察し、朝廷に報告する役割を担いました。その後、採訪使の地位は高まり、行政権を得るに至りました。安史の乱の後、藩鎮の節度使が採訪使を兼任することが多くなりました。採訪使は、しばしば軍事長官も兼任していました。

粛宗の乾元元年（758年）に、採訪処置使は観察処置使（観察使。雅称として、廉帥、廉使ともいう）と改称されました。観察使の職責は、行政の協調・監督であり、軍務の役割は大きくなかったため、持節を有さず、権力は節度使より小さく、幕府の官兵の人員も節度使より少数でした。

宋

宋代には、道の長官から実権を伴わない官職へと変化しました。武将、宗室、内侍が任ぜられ、官位は正五品であり、節度使や節度観察留後に次ぎ、防御使、団練使、刺史よりも高位でした。

遼

遼代には、観察使は一般に節度使と並立せず、節度使が設けられていない区域に観察使が置かれました。

金

金代には、節度使が常に観察使の事務を兼任しました。

元・明・清

元代には、観察使が廃止され、按察使を改称した粛政廉訪使が類似の官職として設けられました。明代、清代には、道員の雅称として観察使の名称が用いられました。

民国

中華民国初年には、清代の道員を改称して観察使とし、後に道尹と更に改称されました。

日本

日本では、平安時代初期の797年頃、桓武天皇が地方行政の徹底を目的として、地方官（国司）の行政実績を監査する勘解由使を設置しました。勘解由使は国司行政を厳正に監査し、地方行政の向上に一定の効果を上げていました。しかし、806年（大同元年）、桓武天皇が崩御すると、後を継いだ平城天皇は政治の刷新を掲げ、同年6月に新たに観察使を置き、勘解由使を廃止しました。

観察使は当初、東山道を除く六道（東海道・北陸道・山陰道・山陽道・南海道・西海道）ごとに設置され、六道観察使とも呼ばれました。また、観察使は議政官の一員である参議が兼任することとされていました。観察使は、参議に比肩しうる重要な官職でした。

翌807年（大同2年）には、東山道および畿内にも観察使が置かれました。併せて、参議を廃止して観察使のみとしました。観察使による地方行政の監察は精力的に実施されていたようで、『日本後紀』には、各観察使が民衆の負担を軽減するため、様々な措置を執っていたことが記録されています。

810年（弘仁元年）、前年に譲位した平城上皇と嵯峨天皇の関係が悪化していく中で、観察使は反天皇勢力を形成していきました。嵯峨天皇は観察使の処遇を格下げし、これに対して同年6月、平城太上天皇は観察使を廃止して参議を復活する詔を発令しました。これにより、観察使は4年間の短い歴史を終えました。

李氏朝鮮

李氏朝鮮では、「監司」とも呼ばれ、全国に8つ設定された道の長官を指します。従二品の高給官僚で大臣級にあたり、地域行政の最高責任者として、守令と呼ばれる地方長官たちを指揮・監督しました。

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