王雲海

王雲海（おう うんかい）

王雲海（Wang Yunhai、1960年10月9日 - ）は、中国河北省出身の刑事法学者、比較法学者です。一橋大学名誉教授であり、元日本法文化学会理事長を務めました。国際人材交流支援協力機構最優秀著書賞を受賞するなど、国際的にも高い評価を受けています。

経歴

学歴・職歴

1982年 - 中国西南政法大学法学部卒業
1982年 - 中国政法大学教員
1983年 - 全中国の留学試験に合格、中国人民大学法学院進学
1984年 - 来日
1985年 - 一橋大学大学院法学研究科入学（福田平ゼミ）
1987年 - 一橋大学大学院法学研究科修士課程修了、指導教官福田雅章
1991年 - 一橋大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学、同専任講師
1998年 - 一橋大学博士（法学）
1999年 - 一橋大学大学院法学研究科助教授
1999年 - 米国ハーバード大学ハーバード・ロー・スクール客員研究員（- 2000年9月）
2003年 - 一橋大学大学院法学研究科教授
2020年 - 一橋大学役員補佐（国際交流担当）
2024年 - 一橋大学名誉教授、一橋大学大学院法学研究科特任教授

所属学会

日本刑法学会
日本法文化学会（理事 1998年度、理事長 2011年度～2014年度）

受賞

『「権力社会」中国と「文化社会」日本』で、IPEX（国際人材交流支援協力機構）2006年度最優秀著書賞

研究領域

王雲海氏の研究領域は、比較刑事法です。中国での出身経験、日本とアメリカでの研究経験を基盤とし、多角的な視点からの研究を展開しています。比較刑事法の研究に留まらず、比較文化論的なアプローチも取り入れ、日中関係の相互理解促進にも貢献しています。大学教育、出版、講演などを通じて、社会における理解を深める活動を行っています。

研究手法

横的比較と縦的比較

王氏は、独自の比較方法論を提唱しています。まず、異なる国々の刑事法現象を、立法、判例、学説を素材として横並びで比較する「横的比較」を行います。次に、刑事法を社会現象として捉え、それぞれの刑事法と社会との関係を比較する「縦的比較」を重視しています。この両側面からの比較を、比較刑事法研究には不可欠としています。

三極的比較

従来の比較刑事法研究では、「A国対B国」や「西洋対東洋」といった二極的な比較が中心でしたが、王氏は、中国、日本、韓国など、同じ「東洋」であっても多くの相違がある点を指摘し、二極的比較の限界を示しました。そのため、中国、アメリカ、日本を比較対象とする「三極的比較」を提唱し、より多角的な視点からの分析を可能にしました。

社会特質による比較

刑事法と社会の関係を比較する際、王氏は、社会の外見的な制度や枠組みを対象とする「社会体制論」や、文化が不変であるとする「文化精神論」ではなく、社会の原点、中心、最も通じる力を基準に社会を分類する「社会特質論」を提唱しています。この視点から、中国を「権力社会」、アメリカを「法律社会」、日本を「文化社会」と定義し、それぞれの社会特質と刑事法の関係を分析しています。

研究分野とテーマ

日本の刑罰の軽重

王氏は、「日本の刑罰は重いか軽いか」というテーマで、中、米、日の比較研究を行っています。死刑、経済犯罪、薬物犯罪、刑事裁判の刑事法上の意義を比較した結果、日本の刑罰の特徴は、犯罪とされる行為の範囲が広い一方で、刑罰は軽い、すなわち「広くて浅い」と結論づけています。これは、日本が文化を原点とする社会であることに起因すると分析しています。

3か国の死刑制度の比較

アメリカ、中国、日本の死刑制度の共通点と相違点を比較し、それぞれの今後の課題を明らかにしています。「保護法益論」を基準に、死刑の罪名、様式、条件、執行方法、前後刑罰、社会的基礎という6項目を比較した結果、アメリカは死刑に「経済的機能」、中国は「政治的機能」、日本は「文化的機能」をそれぞれ果たさせていると分析しています。死刑問題に関しては、「法治主義」の観点から再認識する必要性を主張し、死刑廃止論の立場を支持していますが、その理由は、犯罪者の罪状が死刑に値しないからではなく、国家や法律はより高い道徳基準で行動すべきであるという信念に基づいています。

中国の行刑

中国では、受刑者に対する行刑を「労働改造」と称し、強制労働と思想教育を重視していましたが、王氏は、日本やアメリカの法治主義的要素を取り入れた「法治主義的労働改造」が21世紀の監獄行刑のあるべき姿であると提唱しています。

中国の賄賂罪への死刑適用

中国は、公務員の収賄罪に死刑を適用していますが、これは、中国法が党を人民利益の代弁者と捉える「一党支配の正統性」に基づくものと分析しています。収賄を体制犯罪とみなし、正統性を傷つける公務員に厳罰を科すことで対処していると指摘しています。規範法と政策法の両面から分析することで、中国における収賄罪への死刑適用の真の理由を解明しています。

著作

単著

『賄賂の刑事規制―中国、米国、日本の比較研究』日本評論社、1998年。
『刑務作業の比較研究―中国、米国、日本』信山社、2001年。
『美国的賄賂罪―実体法与程序法』中国政法大学、2002年。
『中国社会と腐敗―腐敗との向き合い方法』日本評論社、2003年。
『死刑の比較研究―中国、米国、日本』成文堂、2005年。
『「権力社会」中国と「文化社会」日本』集英社新書、2006年。
『日本の刑罰は重いか軽いか』集英社新書、2008年。
『監獄行刑的法理』中国人民大学出版社、2010年。
『賄賂はなぜ中国で死罪なのか』国際書院、2013年。
『The Death Penalty in China: Policy, Practice and Reform』Columbia University Press、2016年

共著

『第4章 刑事法』執筆、『現代中国法講義(第3版)』西村幸次郎編、法律文化社、NJ叢書、2008年
『第10章 腐敗問題とその対策』執筆、『グローバル化のなかの現代中国法(第2版)』西村幸次郎編著、成文堂、2009年
『第3章 死刑改革から見る中国法の「変」と「不変」』執筆、『現代中国法の発展と変容-西村幸次郎先生古稀記念論文集』成文堂、2013年
『対論！日本と中国の領土問題』共著者、横山宏章、集英社新書、2013年
『よくわかる中国法』編著者、王雲海、周劍龍、周作彩、ミネルヴァ書房、2021年

外部リンク

一橋大学の研究者情報
一橋教員の本 監獄行刑的法理
日本の刑罰は重いか軽いか

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