罪数

罪数とは

刑法における「罪数」とは、ある行為に対して成立する犯罪の個数を指す概念です。犯罪が1つだけ成立する場合を「一罪」、複数成立する場合を「数罪」と呼びます。

一罪と数罪の区別

ある行為が一罪とみなされるか数罪とみなされるかは、以下の基準によって判断されます。

行為標準説: 犯罪行為の個数を基準とする考え方です。
意思標準説: 行為者の意思を基準とする考え方です。
法益標準説: 侵害された法益の数を基準とする考え方です。
構成要件標準説: 構成要件充足の数を基準とする考え方で、現在の通説です。

罪数の分類

罪数は、その態様によってさらに細かく分類されます。一般的に、以下に示す順に一罪としての性質が強く、下に行くほど数罪としての性質が強くなります。

単純一罪

構成要件に該当する犯罪事実が1回だけ発生する場合です。たとえば、1回の窃盗行為は単純一罪となります。また、結合犯（強盗罪など）、常習犯（常習賭博罪など）、営業犯（無免許医業罪など）のように、複数の行為を1つの犯罪の構成要件とする場合も、原則として単純一罪に含まれます。

法条競合

条文上は複数の構成要件に該当するように見えるものの、実際には1つの構成要件のみが適用される場合です。これには以下の3つの類型があります。

1. 特別関係: 一般法と特別法の関係にある場合、特別法が優先されます（例：背任罪と特別背任罪）。
2. 補充関係: 補充的な構成要件と被補充的な構成要件がある場合、被補充的な構成要件のみが適用されます（例：現住建造物放火罪と非現住建造物放火罪）。
3. 択一関係: 複数の構成要件が両立しない場合、いずれか1つのみが適用されます（例：横領罪と背任罪）。

包括一罪

法条競合には該当しないものの、実質的に一罪と評価される場合です。これには以下の類型があります。

1. 1つの行為で同一構成要件内の複数の結果が発生したが、実質的に1つの法益侵害と評価される場合 (例：1つの放火による延焼)。
2. 1つの行為で複数の構成要件にまたがる複数の結果が発生したが、1つの構成要件のみを適用することで他の構成要件も評価し尽くされる場合（例：ピストルによる殺人による衣服の損壊）。
3. 同一構成要件内の複数の結果を発生させるために複数の行為が行われたが、実質的に1つの法益侵害と評価される場合（例：連続した銃弾発射による殺人）。
4. 同一の法益・客体に対する複数の行為が、目的・手段あるいは原因・結果の関係にある場合で、一方が他方を吸収する場合。手段である犯罪が目的である犯罪に吸収される場合を共罰的事前行為、結果である犯罪が原因である犯罪に吸収される場合を共罰的事後行為と呼びます（例：窃盗と盗品運搬）。

科刑上一罪

実質的には数罪であるものの、刑罰を科す上で一罪として扱う場合です。刑法第54条第1項に規定されており、観念的競合と牽連犯があります。

観念的競合: 1つの行為が複数の罪名に該当する場合です（例：1つの行為で人を殺し、同時に建造物を損壊した場合）。
牽連犯: ある犯罪が他の犯罪の手段や結果となっている場合です（例：文書偽造で詐欺を行った場合）。

併合罪

実質的にも科刑的にも数罪であり、複数の罪をまとめて処断する場合です。刑法第45条に規定されており、異なる犯罪を複数犯した場合が該当します。

まとめ

罪数の判断は、刑法において非常に重要な概念であり、適切な刑罰を科すための基礎となります。罪数の考え方を正しく理解することは、犯罪行為の責任を明確にする上で不可欠です。

参考資料

* 前田雅英『刑法総論講義 第3版』東京大学出版会、1998年、468-482頁。

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