環境財

環境財（かんきょうざい）

環境財（Environmental good/goods）は、私たちが享受する環境が持つ様々な価値や恩恵を指す概念です。これは単に美しい自然景観や豊かな生態系だけでなく、環境そのものが持つ質、そうした環境が存在する空間、環境によってもたらされる付加価値、さらには環境を維持・管理するために必要な設備や道具、技術や手法までを含む広範な意味合いを持っています。「環境材」と表記されることもあります。

環境財が対象とする「環境」には、大きく分けて自然環境と文化的環境があります。自然環境は、地質・地形、河川や海といった水系、多様な動植物の生態系、さらには天然資源など、人間の手が加わらない（あるいは少ない）天然の要素（いわゆる自由財）で構成されます。一方、文化的環境は、里山のような人々の暮らしと自然が結びついた景観や、都市部の公園など、人為的な影響や構造物によって形作られた環境を指します。これら多様な環境を健全に保ち、維持・向上させるために必要な有形無形の所産を総括して「環境財」と呼びます。

例えば、世界自然保護基金（WWF）は、環境が地球にもたらす気候の安定、清浄な空気の提供、生命を育む養分、汚染物質を分解するバイオレメディエーション能力なども環境財として位置づけています。

地政学の観点からは、環境財はしばしば重要な資源地域とみなされます。肥沃な土地や水利権といった環境資源を巡って、歴史上多くの紛争が発生してきた事例からも、その戦略的な重要性が理解できます。

環境財が存在する場所には、個人の所有する土地（私有地）が含まれる場合もあります。しかし、その性質上、特定の個人や集団だけでなく社会全体が恩恵を受ける側面が強いため、公共財としての性格を強く持ちます。このため、地域社会全体で共有・利用される共有物、すなわちコモンズ（入会地）と見なされることが多く、環境財に関連する施設なども地域全体の保有資産として扱われる傾向があります。

環境財の概念は、一見すると自然環境や景観を損なうように見える人工物にも拡大されることがあります。例えば、治水のための砂防堰堤や、土地利用に必要な排水路などは、自然景観とは異なる形態をしていますが、環境管理や防災機能の維持に不可欠な場合、これらも環境財の一部とされることがあります。こうした構造物は、産業遺産という視点で見ると、地域独自の環境と一体となった文化景観を形成していると捉えることも可能です。日本においては、これらの施設は土木・防災関連法規だけでなく、自然環境保全法や自然再生推進法といった環境関連法規においても設置が認められています。

文化経済学の分野では、環境財を維持・活用するために必要な労働力も、広義の環境財の一部と考える視点が生まれています。

さらに近年、特に欧米では、世代を超えて環境を健全に受け継いでいくための活動、すなわち環境営繕そのものも環境財の一部として捉える傾向が見られます。これは、環境財が地域の文化を補完し、形成する重要な要素、いわば環境文化財（無形文化財の一種とも解釈できる）として認識されていることを示唆しています。イタリアでは、かつて文化財・文化活動省の前身として文化財環境財省が存在したように、環境財が文化財と並列に扱われていた歴史があり（現在は文化財に包括されています）、文化圏を形作る周辺条件としての意味合いが付与されています。

環境財は、その価値が認識されれば、資産として捉えることができます。環境経済学では、環境財が持つ多様な価値を評価・査定する試みが行われています。現実的な経済活動の中では、森林が持つバイオマスとしての価値や、二酸化炭素吸収源としての機能など、特定の環境財が温室効果ガス排出取引といった市場メカニズムの中で取引される事例も見られます。

国際的なレベルでは、公平な環境財の取引環境を整備するため、世界貿易機関（WTO）が2014年7月に環境財協定を承認し、ソーラーパネルやリサイクル素材といった環境関連製品の貿易障壁を撤廃するための交渉を進めようとしています。

地球規模での環境問題が深刻化する中で、環境財の潜在的な価値は今後ますます高まることが予想されます。しかし、その価値を最大限に引き出しつつ、将来世代もその恩恵を受けられるよう、持続可能な開発の視点から環境財を保全・活用していくことが極めて重要となります。

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