生きとし生けるもの (2017年の映画)

生きとし生けるもの

『生きとし生けるもの』（いきとしいけるもの）は、2017年に日本の劇場で公開された自然ドキュメンタリー映画です。本作は、北海道の広大な大地と厳しい自然環境を舞台に、そこに息づく野生動物たちのありのままの姿と、彼らが懸命に繰り広げる生命の営みを、約5年という長い歳月をかけて丁寧に追い続けた記録です。

制作陣

監督は、本作が映画初監督となる今津秀邦氏が務めました。今津氏は、旭川市出身で、北海道在住の写真家として活動しており、旭山動物園のポスター写真なども手掛けるなど、動物や自然に対する深い洞察を持っています。その写真家としての視点が、本作の映像表現に大きく活かされています。監修は、旭山動物園の元園長であり、「行動展示」で知られる小菅正夫氏が担当し、動物の生態や自然環境に関する専門的な知見から作品を支えました。ナレーションは、冒頭と最後のわずかな場面にのみ登場する「誘い人」として、俳優の津川雅彦氏が担当。観客を、静かに、しかし力強く、北海道の野生の世界へと誘います。

作品内容

この映画の最大の魅力は、北海道に生息する多様な野生動物たちの生態が、臨場感あふれる映像で捉えられている点です。登場するのは、雪原を駆け抜けるキタキツネ、群れを成して空を舞うマガン、母なる川を目指し遡上するシロザケ、森の奥深くに生きるエゾヒグマ、そして愛らしい姿のエゾナキウサギなど、多岐にわたります。カメラは、彼らが日々直面する食料の確保、子育て、厳しい自然への適応といった生存競争の現場に密着し、そのひたむきな姿を映し出します。

本作が描く中心的なテーマは、自然界に存在するすべての生命が互いに関連し、依存し合いながら、壮大な生命のサイクルの中でそれぞれの役割を全うしている、ということです。動物たちの営みは、まるで計算され尽くしたドラマのようで、観る者はその姿に感動と共感を覚えるでしょう。彼らの生き様を通して、生命の尊厳や、自然界のバランスの大切さが静かに問いかけられます。

表現の特徴

作品には、登場人物の台詞が一切ありません。動物たちの自然な鳴き声、風の音、川のせせらぎといった自然音と、小津雅邦氏による印象的な音楽が、映像と相まって物語を紡いでいきます。この表現手法により、観客は余計な情報に惑わされることなく、純粋に映像と音を通じて自然の息吹を感じ取ることができます。撮影チームは、監督の今津氏を含む多人数によって構成され（大橋征継氏、小野田倫久氏、斎藤博之氏、野嶽次郎氏、野村真輝氏、南尚貴氏などが名を連ねています）、彼らの粘り強い撮影によって、動物たちの息遣いまで聞こえてきそうなほど迫力のある映像が実現しています。その他、構成を多胡由章氏、音響を石川秀幸氏、美術を柴田沙央里氏、編集を村木恵里氏が担当するなど、多くのスタッフが作品を支えています。

評価

『生きとし生けるもの』は、その優れた映像表現が高く評価されました。2017年度には、監督である今津秀邦氏が第26回J.S.C.賞（日本映画撮影監督協会賞）を受賞しています。これは、長年にわたる厳しい撮影環境での努力と、それを映像として昇華させた技術が高く評価された結果と言えるでしょう。

「いちど限りの、永遠。」というキャッチコピーが示す通り、この映画は、二度と繰り返されない一瞬一瞬の輝きと、それらが織りなす永遠の自然のサイクルを描き出しています。北海道の野生動物たちのありのままの姿を通して、私たちは生命の力強さと尊厳、そして自然と共に生きることの意味について深く考えさせられる、心に響く作品です。

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