エゾナキウサギ

エゾナキウサギ（Ochotona hyperborea yesoensis）

エゾナキウサギは、ウサギ目ナキウサギ科に属する小型哺乳類で、キタナキウサギの亜種です。日本では北海道にのみ生息し、その愛らしい姿と特徴的な鳴き声で知られています。

形態

エゾナキウサギは、体重が60-150g、体長が10-20cm程度と、非常に小型です。尾は5-7mmと短いですが、体毛に隠れているためほとんど見えません。夏毛は赤褐色、冬毛は灰褐色から暗褐色へと変化し、年に2回の毛変わりを行います。

体重: 60-150g
体長: 10-20cm
尾長: 約1cm
耳長: 約2cm
毛色: 夏は赤褐色、冬は灰褐色から暗褐色

生態

エゾナキウサギは、北海道の北見山地、大雪山系、夕張山地、日高山脈などの高山帯に生息しています。特に、標高800m以上のガレ場を好み、岩場によって作り出される低温環境が生存に不可欠です。寒さには強いものの、風雨や極端な環境を避ける傾向があります。

食性は植物食で、葉、茎、花、実などを食べます。冬眠はせず、夏から秋にかけて植物を岩の間に貯蔵し、冬の食料とします。また、ノウサギやイエウサギと同様に盲腸糞を食べる行動も確認されています。

集団で穴居生活を営み、外敵に対して協力して防衛するなど社会性も持ち合わせていますが、排他性も強い動物です。雌雄それぞれが縄張りを持ち、つがいとなるペアの縄張りはほぼ同じ範囲です。繁殖期は春から夏の年1回で、1回に1-5頭の子どもを産みます。寿命は2-3年と推定されています。

鳴き声

名前の由来にもなっているように、エゾナキウサギは甲高い鳴き声でよく鳴きます。オスとメスで鳴き声が異なり、オスは「キィッ」「キチィ」という音を発し、メスは「ピュー」「ピィーッ」といった伸びのある声や、「ピィツィ」「ピキィ」といった短い声を出します。繁殖期には、オスは連続して鳴き、メスは「ピィルルルル」「ピィッピィッピィッ」といった連続音を発することがあります。

発見と現状

エゾナキウサギは1928年にカラマツ林の害獣として捕獲されたことがきっかけで発見されました。しかし、発見から70年近く経った1990年代の調査では、生息地が半減していることが判明しました。原因として、エゾシカの増加が挙げられています。

保護状況

エゾナキウサギは、環境省のレッドリストで準絶滅危惧種（NT）に指定されています。夕張岳の個体群が特に危機的な状況にあることが確認されており、保護対策が急務となっています。

IUCN（国際自然保護連合）のレッドリストでは、種としてのキタナキウサギがLeast Concern（低懸念）に指定されており、亜種であるエゾナキウサギもこれに含まれています。

エゾナキウサギは、北海道の自然を象徴する貴重な動物です。生息環境の保全と個体数回復のため、継続的な調査と保護活動が求められています。

参考文献

門崎允昭『野生動物調査痕跡学図鑑』北海道出版企画センター、2009年。
阿部永ら著、財団法人自然環境研究センター編『日本の哺乳類』（改訂版）東海大学出版会、2005年。
環境省自然環境局野生生物課編『日本の絶滅のおそれのある野生生物1 哺乳類』（改訂版）財団法人自然環境研究センター、2002年。

関連項目

ナキウサギ
哺乳類レッドリスト (環境省)
* 日本の哺乳類一覧

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