生ける死仮面

生ける死仮面

『生ける死仮面』は、横溝正史が手掛けた短編推理小説であり、「金田一耕助シリーズ」の一作として知られています。この作品は、1953年10月号の『講談倶楽部』に掲載されました。後に、角川文庫の『首』（旧題『花園の悪魔』）に収録されています。

物語の背景と特徴

この物語は、序盤にアトリエで腐乱死体を凌辱するという衝撃的な設定が特徴です。この設定は、翌年に発表された『睡れる花嫁』にも類似性が見られます。また、題名やデスマスクを扱っている点では、同じく横溝正史の作品である『死仮面』との関連性も指摘されています。物語中では、上田秋成の『雨月物語』の一編「青頭巾」が引用されており、これも『死仮面』で言及されています。

あらすじ

物語は、杉並区T警察署管内駐在所に勤務する山下巡査が、彫刻家で男色家の古川小六のアトリエに美少年が運び込まれるのを目撃するところから始まります。小六は、その美少年を上野か浅草の浮浪児だと説明しますが、約2週間後、山下巡査はアトリエから聞こえる男の号泣と異臭に気づきます。アトリエの中を覗くと、小六が腐乱死体と同衾しようとしているのを発見し、彼は逮捕されます。

解剖の結果、美少年の死因はヒロポン中毒死であることが判明します。そして、小六が制作したデスマスクが、三鷹から吉祥寺にかけての大地主である緒方欣五郎・やす子夫妻の息子、辰夫のものであると特定されます。当初、警視庁の等々力警部は単なる死体損壊事件として処理しようとしますが、金田一耕助が事件に関心を抱き、死体がデスマスクの人物と同一と断定するのは早計ではないかと示唆します。さらに、辰夫の実の母親を名乗る本橋加代が現れ、辰夫は小六に殺害されたのではないかと主張します。

主要な登場人物

金田一耕助（きんだいち こうすけ）：私立探偵。
古川小六（ふるかわ ころく）：彫刻家で、アトリエの所有者。
緒方光子（おがた みつこ）：小六の元妻で、緒方家の分家の一人娘。
緒方辰夫（おがた たつお）：家出少年。
緒方欣五郎（おがた きんごろう）：辰夫の養父で、大地主。
緒方やす子（おがた やすこ）：欣五郎の妻で、辰夫の養母。
本橋加代（もとはし かよ）：辰夫の実の母親。
等々力（とどろき）：警視庁の警部。
山下敬三（やました けいぞう）：杉並区T警察署管内駐在所の巡査。

収録書籍

この作品は、以下の書籍に収録されています。

『首』（旧題『花園の悪魔』）角川書店、1997年、角川文庫、金田一耕助ファイル11、ISBN 978-4-0413-0443-3

テーマと関連作品

『生ける死仮面』は、デスマスクという特殊な小道具を使いながら、人間の欲望や心の闇を描き出す作品です。また、性転換というテーマにも触れており、当時の社会観やタブーに挑戦している側面も持ち合わせています。この作品は、横溝正史の作品の中でも、特に異彩を放つ一作と言えるでしょう。

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