生出寿

生出寿：海軍と文筆の道を歩んだ生涯

生出寿（おいでひさし）は、1926年（大正15年）3月13日生まれ、2006年（平成18年）没の小説家、作家、そして実業家である。海軍兵学校74期を卒業し、海軍少尉の階級で第二次世界大戦終戦を迎えた経歴を持つ人物として知られている。

栃木県宇都宮市出身の生出は、学業においては栃木県立宇都宮中学校（現在の栃木県立宇都宮高等学校）を経て、1942年12月、海軍兵学校へ進学。1945年3月に卒業し、潜水学校普通科学生として、波二百一型潜水艦への乗組を予定していたが、終戦によってその機会は失われた。

戦後、東京大学文学部仏文学科を卒業。在学中には公職追放を受けたものの、大学卒業後はアサヒ芸能新聞社（現在の徳間書店）に入社。常務取締役を経て、株式会社ことば社の社長に就任し、経営者としての顔も持つようになった。

生出の活動は、実業界にとどまらなかった。彼は、日本海軍に関する著作を多数発表し、その多くは文庫版として再刊されるなど、高い人気を博している。太平洋戦争という激動の時代を背景に、数々の海軍軍人やその戦略、そして戦争そのものについて、独自の視点から分析した作品群は、歴史研究家や一般読者から広く支持を得ている。

彼の著作は、山本五十六、井上成美、大西瀧治郎、小澤治三郎、山口多聞といった、日本海軍を代表する人物に関する評伝から、海軍の組織や作戦、人事といった内部構造を分析した作品まで多岐にわたる。単なる英雄譚ではなく、成功と失敗の両面を深く掘り下げ、客観的な視点と詳細な裏付けに基づいた分析が特徴となっている。『凡将山本五十六』や『反戦大将井上成美』といった代表作は、生出の緻密な調査と考察に基づいた、海軍史研究において重要な位置を占めるものとなっている。

また、生出は海軍兵学校や海軍内部のエピソードをまとめた作品も多数執筆しており、これらは海軍の日常や人間模様を垣間見ることができる貴重な資料となっている。『海軍兵学校よもやま物語』や『海軍おもしろ話』シリーズなどは、生出自身の体験や聞き取りに基づいた興味深いエピソードが満載で、歴史研究の枠を超えた読み物としても高い評価を受けている。

生出寿の著作は、太平洋戦争期の日本海軍に関する貴重な資料を提供しているだけでなく、その多角的な視点と綿密な調査、そして読みやすい文章によって、多くの読者に歴史への理解を深める機会を与えてくれたと言えるだろう。彼の功績は、日本海軍史研究に大きな足跡を残したものとして、今後も高く評価されるに違いない。

主な著書（出版社は徳間書店、一部を除く）：

『凡将山本五十六』
『反戦大将井上成美』
『特攻長官大西瀧治郎』
『捨身提督小澤治三郎』（文庫版：『智将小澤治三郎』）
『勇断提督山口多聞』（文庫版：『烈将山口多聞』）
『帝国海軍軍令部総長の失敗』
『完全勝利の鉄則東郷平八郎とネルソン提督』
『ニミッツと山本五十六』
『海軍人事の失敗の研究太平洋戦争・誤断の開戦と完敗の主因』
『一筆啓上瀬島中佐殿無反省の特攻美化慰霊祭』
『勝つ戦略負ける戦略東郷平八郎と山本五十六』
『真珠湾攻撃総隊長淵田美津雄の戦争と平和』
『航空作戦参謀源田実』
『海軍おもしろ話戦前・戦後篇』
『海軍おもしろ話戦中篇』
『戦艦大和艦長有賀幸作逆境に強い実戦型指揮官の生涯』
『米内光政昭和最高の海軍大将』
『海軍兵学校よもやま物語』（光人社）
『勝つ司令部と負ける司令部』（新人物往来社）
『井上成美のすべて』（新人物往来社）
* 『海軍ひょうきん物語』（ことば社）
など多数。

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