生物戦争

生物戦争とは

生物戦争（Biological warfare、BW）は、細菌、ウイルス、真菌などの生物由来の病原体や毒素を兵器として使用し、人間、動物、植物を殺傷または無力化する行為です。生物兵器には、生物そのものだけでなく、ウイルスのように自己複製する物質も含まれます。

生物戦争は、核兵器、化学兵器、放射能兵器とともに大量破壊兵器（WMD）を構成し、通常の兵器とは異なる脅威をもたらします。生物兵器は、戦略的優位を得るために、敵に対して使用される可能性があり、その影響は個人から集団全体に及ぶ可能性があります。

生物兵器の使用は国際法で禁止されており、違反した場合は戦争犯罪となります。しかし、生物兵器の開発や備蓄は依然として懸念されており、バイオテロリズムの脅威も存在します。

生物戦争の歴史

生物戦争の歴史は古代にまで遡ります。

古代・中世:
紀元前1500年頃、ヒッタイト人が野兎病感染者を敵地に送り込み、病気を蔓延させたという記録があります。
アッシリア人は、敵地の井戸に麦角菌を混入させたとされています。
スキタイ人や古代ローマ軍は、排泄物や死体の血を塗った武器で傷を負わせ、破傷風を引き起こさせました。
1346年、クリミア半島のカッファでは、ペストに感染した死体が投石器で街に投げ込まれ、ペストを蔓延させたという記録があります。
近世:
16世紀以降のアフリカでは、毒矢や毒粉、毒を盛った水源などが生物兵器として使用されました。
1763年、フレンチ・インディアン戦争中、イギリス軍が天然痘に汚染された毛布を先住民に与えたとされる事件がありました。ただし、天然痘の流行は以前からあり、この事件の影響については議論があります。
アメリカ独立戦争中、ジョージ・ワシントンはイギリス軍が天然痘を広めようとしているという情報を得て、兵士に予防接種を施しました。
近代:
第一次世界大戦中、ドイツ帝国が炭疽菌などを使用した破壊工作を行いましたが、効果は限定的でした。
1925年、ジュネーブ議定書で生物兵器の使用が禁止されました。
第二次世界大戦中、イギリス、アメリカ、日本などが生物兵器の開発を秘密裏に進めました。
イギリスは、炭疽菌などの病原体を兵器化し、大規模な実験を行いました。
アメリカは、フォート・デトリックで研究開発を行い、炭疽菌などを大量生産しました。
日本陸軍は、731部隊で人体実験を行い、生物兵器を開発・使用しました。特に、中国ではペスト菌を散布する作戦を実行し、甚大な被害をもたらしました。

現代の生物戦争

1972年の生物兵器禁止条約（BWC）により、生物兵器の開発、生産、備蓄、使用は禁止されました。しかし、生物兵器の開発・使用の脅威は完全には消えていません。

生物兵器は、大量破壊兵器としての潜在的な危険性だけでなく、テロ組織などによる使用も懸念されています。また、研究施設からの病原体の流出など、偶発的な感染のリスクも存在します。

各国は、生物兵器の脅威に対応するため、防御技術の開発や国際協力に取り組んでいます。

生物戦争の課題

生物戦争には、以下のような課題があります。

効果が出るまでに時間がかかる: 生物兵器は、効果が出るまでに数日かかるため、即効性のある兵器としては使いにくい。
感染拡大の危険性: 一部の生物兵器は、人から人へと感染する可能性があり、意図しない集団にまで被害が及ぶ可能性がある。
制御の難しさ: 生物兵器は、一度使用すると、その影響を完全に制御することが困難である。
偶発的な危険性: 研究施設からの病原体の流出や、テロ組織による使用など、偶発的な危険性も存在する。

これらの課題を考慮し、国際的な協力体制を構築し、生物兵器の脅威に対処していく必要があります。

出典

Wheelis, Mark (September 2002). “Biological Warfare at the 1346 Siege of Caffa”. Emerging Infectious Diseases 8 (9): 971–975.
生物兵器と国際人道法 、ICRC
WHO：生物および化学兵器の健康面
“Biological Warfare”. National Library of Medicine.
USAMRIID米陸軍感染症研究所
Joel O. Almosara (2010年6月1日). “Biotechnology: Genetically Engineered Pathogens” (英語).
* Chaturvedi. “Live and Computational Experimentation in Bio-terror Response”.

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