生田花世

生田花世（いくた はなよ）

生田花世は、1888年（明治21年）10月14日に徳島県で生まれ、1970年（昭和45年）12月8日に生涯を閉じた、作家であり詩人です。彼女の82年の生涯は、激動の時代と深く結びついていました。特に、詩人生田春月との14年間にわたる同棲生活は、彼女の人生と作品に大きな影響を与えました。

生涯

幼少期から文学との出会い

花世は、徳島県板野郡泉谷村（現在の徳島県上板町）で、村長も務めた西崎安太郎の長女として生まれました。幼い頃から文学に興味を持ち、1903年（明治36年）、15歳で県立徳島高等女学校に編入すると、『明星』や『文章世界』といった雑誌に投稿を始めました。この頃、容姿や身長に対する劣等感も抱いていましたが、服装には生涯こだわらなかったとされています。

教員生活と詩作の道

高等女学校卒業後、教員免許を取得した花世は、県職員の教員として働き始めます。1906年には半田小学校、翌年には松島小学校で教鞭を執りました。この時期には、病弱の詩人横瀬夜雨に文通で詩作の指導を受け、河井酔茗にも師事し、『女子文壇』に「長曽我部菊子」の筆名で作品を発表しました。

上京と生活苦

1909年に父が亡くなると、翌年、母の許しを得て上京し、県職員を退職しました。東京では、王子の豊島小学校の教員、水野葉舟家の書生、『女子文壇』の記者、寄席の女中など、様々な職を転々としました。貧困の中で、職場の性的嫌がらせにも苦しみながらも、投稿活動を続けました。

『青鞜』参加と生田春月との同棲

1912年、24歳になった花世は、『新しい女』として注目されていた『青鞜』に参加し、翌年には本名で、自身の恋愛や生活に関する告白的な文章を発表しました。1914年2月には、その文章を読んだ生田春月から求婚され、同棲生活を始めます。しかし、春月はすぐに浮気を繰り返すようになり、二人の関係には溝が生まれましたが、花世は経済的に春月を支え続けました。

女性解放運動と文筆活動

同棲生活を続ける中で、花世は春月と共に、生田長江の『反響』誌に加わりました。1915年には、雑誌上で『貞操論争』を展開し、女性の権利を主張しました。また、青鞜の最末期には、伊藤野枝の出産帰郷に伴い、編集の実務を引き継ぎました。1916年には、平塚らいてう、生田長江らと女性文芸誌『ピアトリス』を創刊しましたが、婦人運動の同人が増え、一年足らずで廃刊となりました。その後も、花世は文筆活動を続け、春月の詩集や小説を支えました。

春月の死とその後

1930年、春月が自殺すると、花世は彼の遺志を継ぎ、末弟と共に『生田春月全集』を編集しました。また、春月の詩誌『詩と人生』を復刊し、後進の指導にもあたりました。長谷川時雨に請われて『女人藝術』の発刊に協力した他、戦時中は、慰問活動や戦意高揚のための活動にも参加しました。戦後は、自宅を「松花塾」として開放し、女性たちと『万葉集』を読みました。また、杉並区の主婦たちへの『源氏物語』の講義は、33会場、400人以上が参加するほどの人気となりました。

晩年

1966年に高血圧と診断されて一時休養しましたが、その後も『源氏物語』の講義を再開しました。1967年には、傘寿を祝う会が開かれ、多くの人々が彼女の著作と長寿を祝福しました。1969年に体調を崩しますが、翌年には、会員たちが建てた歌碑の除幕式に病院から出席しました。そして、その年の暮れに生涯を閉じ、歌碑の下に埋葬されました。東京都八王子市絹ケ丘3-8-1 光照寺に眠っています。

主な著書

• - 『情熱の女』（1913）
• - 『恋愛巡礼』（1915）
• - 『近代日本婦人文芸女流作家群像』（1929）
• - 『燃ゆる頭』（小説集）（1929）
• - 『春の土』（詩集）（1933）
• - 『銃後純情』（1940）
• - 『輝く人柱 教化史蹟物語』（1941）
• - 『活かす隣組』（1941）
• - 『明かるい人事調停』（1942）
• - 『明るい台湾の生活』（1942）
• - 『日本の娘』（1942）
• - 『戦時女性文範』（1943）
• - 『一葉と時雨』（1943）
• - 『海国女性史』（1943）
• - 『結婚前後』（1944）
• - 『未亡人』（1949）
• - 『女の道 未亡人の生き方』（1950）
• - 『源氏物語 原文入解説』（1967）
• - 『生田花世詩歌全集』（1971）

関連情報

• - 戸田房子『詩人の妻 生田花世』（1986）
• - らいてう研究会編『「青鞜」人物事典 110人の群像』（2001）
• - 堀場清子『青鞜の時代 平塚らいてうと新しい女たち』（1988）

関連図書

• - 生田花世の会編『生田花世讀本』（1966）
• - 生田花世の会編『生田花世の会文集. 第1集』（1966）
• - 和田艶子『生田花世の生涯』（1995）
• - 森まゆみ『断髪のモダンガール 42人の大正快女伝』（2008）

関連項目

• - 徳島県立文学書道館

外部リンク

• - 『生田花世』 - コトバンク

生田花世は、激動の時代を生き抜き、文学を通じて女性の生き方や社会への思いを表現し続けました。その作品と生涯は、今日においても多くの人々に影響を与え続けています。

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