田の神

田の神についての詳細

田の神（たのかみ）は日本の農業社会において、稲作の豊凶を監視し、豊穣をもたらす神として広く信仰されています。作神、農神、百姓神、野神とも称され、穀霊神や水神、守護神の側面を持ちながら、特に山の神信仰や祖霊信仰とも深く結びついていることが特徴です。

農耕神をまつる習俗

日本における農耕神の信仰は古代から存在し、8世紀に成立した『日本書紀』や『古事記』には稲霊（いなだま）や倉稲魂（うかのみたま）、豊受媛神（とようけびめのかみ）などの名前が見られます。特に豊受媛神は、稲の霊を祭る巫女との関わりから、農神が女性であると考えられるようになったとされます。地域によって異なる呼び名があり、東北地方では「農神」、甲信地方では「作神」、近畿地方では「作り神」と呼ばれることがあります。また、田の神は土地の神や稲荷神と同じ存在とみなされることも多い一方で、漁業神や福徳神とは区別される信仰です。

山の神信仰と他の神との結びつき

山の神信仰は、狩猟や焼畑農業に従事する人々によって形成された独特の宗教的行為が伝承されてきたもので、春と秋に田の神として家や里に下り、農作業を見守ると考えられています。このような信仰は全国に広がり、田の神が家と田を去来する伝承が存在します。特に新潟県では、田の神が天竺から来て、家と田を循環することが信じられています。

田の神の祭り

田の神は春と秋の季節に祭りが多く行われます。代表的な祭りには年頭の予祝祭、農作業開始時の水口祭、田植祭、収穫祭などがあります。これらの祭りは農耕儀礼の一環として実施され、特に田植えや稲刈りの時期に賑わいます。年神様を迎える予祝祭では、掛軸を掲げて神に祀ることが伝統的に行われています。

水口祭

苗代の播種の際に田の神をまつる水口祭は、地域によって特色のある行事が行われます。宮城県では水口に木の枝や焼米を立てるなど、各地の風習が色濃く反映されています。

田植えに関する祭り

田植前後にはサオリ（田の神を迎える祭り）やサナブリ（田の神を送る祭り）などが行われます。特に田植えは、重要な農耕儀礼の一部として位置付けられています。田植えの日には早乙女が装飾を施し、神聖な田植飯を作って田の神と共に食事を共にします。

収穫の儀礼

穂掛けや刈上げなどの収穫に関連する行事も大切です。穂掛けは新米を神前に供える儀式であり、刈上げは稲刈り終了後に行い、感謝の気持ちを伝える重要な祭りとなります。これらの行事は地域によって異なる様式を持ちながら、農業の成功を祈願するための大切な儀式です。

田の神の具体的な信仰

田の神の姿は地域によって異なり、水口に刺された木の枝や石が依代として使われることが一般的です。しかし、九州地方では田の神の石像が特に見られ、この石像は神格化された存在として、地域コミュニティにおいて重要な役割を果たしています。

狐塚と稲荷信仰

狐は田の神の使いとされ、狐塚の信仰は全国各地に見られます。狐を聖なる存在と捉える風習の背後には、長い歴史を経た人間と狐との関わりがあります。狐を通じて田の神の力が伝えられることから、稲荷信仰の広がりにも影響を与えたと考えられます。

田の神の信仰は、日本の農耕文化において根強く続いており、伝統的な行事や祭りを通じてその精神は今なお受け継がれています。

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