田中勝 (軍人)

田中勝：二・二六事件に散った陸軍軍人の生涯

田中勝（たなか まさる、1911年1月16日 - 1936年7月12日）は、昭和初期の陸軍軍人であり、最終階級は砲兵中尉でした。彼は二・二六事件に参加し、処刑された人物として歴史に名を残しています。

生涯

田中勝は山口県下関市で生まれました。幼い頃に実母を亡くしています。熊本陸軍幼年学校を経て、1933年に陸軍士官学校を卒業。陸士在学中に肋膜炎を患ったため、卒業は一期遅れの45期となりました。この頃から革新思想に傾倒するようになり、養母の信子から磯部浅一との面会を止められるほどでした。1935年には砲兵中尉に任官。同年12月27日には、又従妹の平山久子と結婚し、年末には小岩へ転居しました。

二・二六事件への関与

1936年2月以降、田中は蹶起（決起）の打ち合わせのため、家を空けることが多くなりました。夫妻で過ごす最後の夜となった2月24日には、磯部浅一との打ち合わせに新妻を同伴したことが磯部の記録に残されています。2月26日、二・二六事件当日、田中は下士官12名に対し、夜間自動車行軍と靖国神社参拝を名目に、野戦重砲兵第7連隊の下士官12名を率いて市川を出発しました。午前3時頃、東京三宅坂への移動途中に自宅に立ち寄っています。靖国神社参拝、宮城遥拝の後、午前5時ごろ、自動車隊は陸相官邸に到着し、教育総監渡辺錠太郎及び東京朝日新聞（現朝日新聞東京本社）襲撃の部隊輸送に関与しました。

事件後

事件から3日後の2月29日付で、田中は従七位返上を命じられます。同年7月5日、陸軍軍法会議にて叛乱罪で死刑判決を受けました。7月7日には面会が許可され、妻や家族との最後の時を過ごします。この時、妻の懐妊を知りました。妻は田中の本心を掴みかね、もう一度一人で面会に訪れ、田中はこれを喜び「お前のことを考えたら、おれ、死にきれねえ」と心情を吐露しました。そして7月12日、田中勝は銃殺刑に処されました。享年25歳でした。

死後

久子夫人は実家の下関に戻り、同年10月に男児を出産しました。田中は遺書の中で、子の名前と、将来は「国家の干城」となるよう（＝軍人にするよう）望んでいましたが、息子は河野壽の兄・司の紹介でサラリーマンとなりました。久子夫人は資格を取得し、幼稚園教諭として定年まで勤め上げました。養母・信子は、勝の父の死去後、出家し円信尼となりました。

田中勝を演じた人物

池月正 - 『叛乱』（1954年）
関口誠人 - 『226』（1989年）

参考文献

* 澤地久枝『妻たちの二・二六事件』中央公論社〈中公文庫〉、1975年2月。

田中勝の生涯は、激動の昭和初期における軍人の苦悩と、二・二六事件という歴史的事件の背景を映し出す鏡と言えるでしょう。

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