田中勝之助

田中 勝之助（たなか かつのすけ）

田中勝之助は、1901年（明治34年）3月16日に、父・田中勝聴が酒造業を営む家にて生を受けました。現在の島根県浜田市旭町丸原にあたる、当時の那賀郡今市村丸原での誕生でした。地元の島根県立浜田中学校で学びを終えた後、1923年（大正12年）に鹿児島高等農林学校の課程を修了しました。卒業後は郷里に戻り、家業である酒造業を引き継いでその経営に携わりました。

実業家としての活動に加え、田中氏は政治の世界にも足を踏み入れました。まずは地元の今市村にて村会議員として市政に貢献しました。一方で、日中戦争においては兵役に召集され、足かけ4年もの期間、軍務に服しました。この間、陸軍歩兵中尉まで昇進を果たしています。また、除隊後も帝国在郷軍人会の那賀郡連合会において分会長を務めるなど、軍事関連の活動にも関わりました。

1942年（昭和17年）3月には島根県の県会議員選挙に当選し、県政への参画を果たしました。同年4月に行われた第21回衆議院議員総選挙では、事前の推薦を得られない立場ながらも、島根県第2区から立候補し、見事当選を果たして国政に進出しました。衆議院議員となってからは、戦時下の主要政治団体である翼賛政治会に所属しました。議員活動と並行して、拓務省委員、大東亜省委員、大政翼賛会中央協力会議員、島根県翼賛壮年団副団長、翼賛政治会政調大東亜委員など、政府や関連組織における様々な要職を兼務し、幅広く活動を展開しました。

政治家としてのキャリアの中で特に注目されるのは、1943年（昭和18年）に帝国議会で審議された戦時刑事特別法中改正法律案に対する対応です。この法案に対し、田中氏は議会において明確に反対の意思表示を行いました。当時の状況下では勇気を要する行動であったと推察されます。この法案への反対が契機となったのか、彼は臨時召集を受けることになりました。軍務のために議員活動の継続が困難となり、1944年（昭和19年）7月15日をもって衆議院議員の職を辞任することとなりました。

議員辞職後、田中氏は再び軍に戻り、広島に駐屯する陸軍第5師団の参謀部付として勤務することになりました。そして1945年（昭和20年）8月6日、広島市に世界史上初の原子爆弾が投下されました。田中勝之助は、その歴史的な悲劇に巻き込まれ、被爆により尊い命を失いました。

広島への原爆投下は、多くの人々の命を奪いました。政治家の中では、田中氏を含め、広島県から選出されていた現職の代議士、古田喜三太氏と森田福市氏もまた、この原爆の犠牲となっています。終戦後の1945年（昭和20年）9月4日に開催された第88回帝国議会の衆議院本会議では、彼ら3名に対し弔辞が贈られ、国を代表してその死が悼まれました。田中勝之助は、激動の時代に実業、軍務、政治と多角的に関与し、その最期は戦争の最も残酷な兵器による犠牲となるという、波乱に満ちた生涯を閉じました。

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