田中忠三郎

田中忠三郎（1933年 - 2013年）は、日本の民俗学者、民俗民具研究家、著述家であり、「布文化と浮世絵の美術館」・浅草アミューズミュージアム名誉館長を務めました。青森県下北郡川内町（現むつ市）に生まれ、渋沢敬三に影響を受け、民具の調査・収集に情熱を注ぎました。

20代前半までは家業を手伝いながら、縄文遺跡の発掘調査を個人的に行っていました。1958年に地元を離れ、平内町の金物屋に住み込みで働きながら遺跡調査に関わり、その後約10年間、青森県内各地でアイヌの調査や縄文時代の遺跡調査を行いました。1965年頃からは調査対象を考古学から民俗・民具へと転換し、三沢市の小川原湖民俗博物館に勤務。その後、青森市歴史民俗展示館 稽古館の館長に就任しました。民俗学に転じてからは、半世紀近くにわたり、集落の古老から昔の話を聞き取るフィールドワークを続けました。

田中忠三郎は、江戸時代から昭和に至るまでの衣・食・住に関わる衣服や民具を幅広く収集・保存しました。そのコレクションは2万点に及び、津軽・南部の刺し子着786点が国の重要有形民俗文化財に、紡績用具と麻布520点が青森県の有形民俗文化財に指定されています。これらのコレクションは、柳宗悦らの「用の美」を体現するものとして評価され、都築響一らが作品制作のために借り受けました。また、古書・近世文書のコレクションも1万点を超え、歴史学者だけでなく、棟方志功や高橋竹山といった芸術家・文化人との交流も深かったことが知られています。

田中忠三郎のコレクションは、映画界にも影響を与えました。寺山修司監督の「田園に死す」（1975年）や黒澤明監督の「夢」（1990年）では、両監督の希望により、田中忠三郎のコレクションから衣装や民具が撮影用として提供されました。

近年では、田中忠三郎コレクションの中の裂織・ぼろ布の芸術性に注目が集まりました。都築響一が撮影した写真集「BORO」（2009年）が出版され、東京上野の森美術館などで「田中忠三郎コレクション 『BORO』」展が開催され、ぼろ布が優れたテキスタイルデザイン・フォークアートとして紹介されました。また、田中忠三郎が20代から30代にかけて発掘した縄文遺跡の考古学資料約1万点は、国立歴史民俗博物館に提供され、民俗資料と合わせて約2万点が所蔵されています。アイヌ資料は国立民族学博物館とアイヌ民族博物館に所蔵されています。

2009年11月には、東京都台東区浅草にアミューズミュージアムが開館し、田中忠三郎は名誉館長に就任。日本の布文化などを展示しました。2012年1月にはNHK「新日本風土記」で、日本の目利きの一人として紹介されています。

田中忠三郎は2013年3月5日に喉頭癌で死去しましたが、そのコレクションと研究は今も多くの人々に影響を与えています。2014年には十和田市現代美術館で、田中忠三郎コレクションを現代アートの観点から捉え直した展覧会が開催され、コレクションと同コレクションに触発された現代美術作品が展示されました。

北海道東北民具研究会会長や日本民具学会理事などを歴任し、青森県の文化振興に大きく貢献しました。その功績から、青森県芸術文化報奨や紺綬褒章などを受章しています。

田中忠三郎のコレクションは、刺し子、裂織、食器、漆器、織機、柱時計、箪笥、古書、浮世絵など多岐にわたり、日本の生活文化を伝える貴重な資料となっています。著書も多数あり、『津軽・南部の刺し子着』や写真集『BORO』などを通して、その研究成果を広く公開しました。

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