田中愿蔵

田中愿蔵の生涯と天狗党の乱

田中愿蔵（たなか げんぞう）は、1844年（天保15年）に常陸国久慈郡の現・茨城県常陸太田市に生まれました。医家の養子として成長した愿蔵は、藩校弘道館や江戸の昌平坂学問所で学んだ後、藩が設立した郷校である時雍館の館長として教鞭を執り、地域の教育に尽力しました。

元治元年（1864年）3月27日、藤田小四郎が尊王攘夷を掲げて筑波山で挙兵すると、愿蔵は時雍館の教え子たちを率いてこれに参加しました。この動きは「天狗党の乱」として知られることになります。彼は天狗党幹部として一隊を指揮しましたが、戦況が悪化する中で藤田の本隊から離れ、独自に行動をすることになります。

田中队は、軍資金を得るために近隣の町村から金品を徴収しようとしました。6月5日には、栃木宿に対して3万両の差し出しを要求しましたが、町の返答が芳しくないことを知ると、押し入り金品を強奪し、宿場を焼き払いました。この事件は「愿蔵火事」として後世に語り継がれています。また、6月21日には真鍋宿で同様の略奪と放火に及び、77戸を焼失させる等、同隊の行動は地域に大きな影響を及ぼしました。

その後、江戸幕府は天狗党に対して追討軍を派遣し、戦闘が始まりました。田中队は那珂湊周辺で幕府軍と激闘を繰り広げましたが、那珂湊の戦いで敗れ、北へと敗走しました。河原子を経て助川城に籠城しましたが、9月26日には幕府軍の攻撃を受けて城は陥落し、田中队は再び敗走することになります。

約200名の田中队は、水戸藩下の赤沢銅山へ食料を求めて参りますが、拒否されると、愿蔵は鉱山の設備を破壊し放火しました。その後も敗走を続け、八溝山に身を隠して再起を図りますが、十分な食料も弾薬もなく、隊士たちの疲弊も限界に達し、愿蔵はやむを得ず解散を決断します。隊士たちは個々に山を下りて逃げましたが、追討軍が迫っており、捕らえられて処刑される者も少なくありませんでした。

愿蔵は真名畑村に逃げ込みましたが、最終的には捕らえられ、塙代官所へ送られました。1864年10月16日、久慈川の河原で斬首されることとなります。享年ただ21歳という若さでした。彼の遺体は後に塙の安楽寺に埋葬され、辞世の句には「みちのくの山路に骨は朽ちぬとも　猶も護らむ九重の里」という言葉が残されています。

現在、福島県東白川郡塙町の「道の駅はなわ」敷地内には「田中愿蔵刑場跡」の碑が建立されており、茨城県つくば市には彼らを鎮魂するための石碑があります。また、故郷の常陸太田市東連地には、愿蔵の生誕を記念した石碑があります。彼の短い生涯とその業績は、今なお多くの人々に感銘を与え続けています。

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