田中洋

田中 洋（たなか ひろし）

1951年に愛知県名古屋市で生まれた田中洋氏は、日本の著名な経営学者であり、特にマーケティング分野、中でもブランド論、消費者行動論、広告論を専門としています。中央大学大学院戦略経営研究科（ビジネススクール）の教授を務めた後、同大学の名誉教授となりました。また、日本マーケティング学会の第2代会長を務めるなど、学術界において重要な役割を果たしてきました。

経歴とアカデミズムへの転身

上智大学外国語学部イスパニア語学科を卒業後、株式会社電通に入社。四日市支局、名古屋支社、東京本社の各部署で、営業や媒体、マーケティングディレクターとして約21年間にわたり広告・マーケティングの実務経験を積みました。この間に南イリノイ大学や慶應義塾大学大学院でも学びを深め、電通での経験を活かしてアカデミズムへと転身します。

城西大学経済学部助教授、法政大学経営学部教授を経て、2008年4月より中央大学大学院戦略経営研究科教授に就任。実務家教員としても中央大学ビジネススクールで多くの後進の指導にあたりました。その間、コロンビア大学ビジネススクール客員研究員・フェロー、フランス国立土木学校大学院国際経営学研究科兼任教授としても活動し、国際的な視点からも知見を深めています。

研究活動と主な業績

田中氏の研究は、長年の実務経験に裏打ちされた理論と実践の融合に特徴があります。特にブランドに関する理論研究、グローバルブランド戦略、ブランドマネジメントの日米比較研究などを手掛けてきました。近年は消費者行動論におけるラグジュアリー研究にも取り組んでいます。

広告研究においては、共著書『新広告心理』、『現代広告論』、『広告心理』で合計三度にわたり日本広告学会賞を受賞するなど、多大な成果を上げています。2008年に出版した『消費者行動論体系』では、心理学に基づいた消費者行動論の体系化を試みました。また、2013年には「メディア接触のコウホート効果に関する研究」で日本マーケティング学会カンフェレンスのベストペーパー賞を共同受賞。

中でも、2017年刊の『ブランド戦略論』（有斐閣）は、それまでのブランド論の全体像を提示しつつ、新たな理論的提唱を行った集大成とも言える著作です。この書籍は、2018年に日本広告学会賞と、日本マーケティング学会のマーケティング本大賞を受賞するなど、高く評価されています。

実務・学会活動と社会貢献

研究活動と並行して、電通での豊富な実務経験を活かし、企業の戦略アドバイザーや研修講師、講演者としても精力的に活動しています。朝日新聞、日本経済新聞、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」など、様々なメディアにも出演し、マーケティングに関する知見を広く一般に伝えています。朝日カルチャーセンターや日本マーケティング協会、日経広告研究所などでも教壇に立っています。

学会活動においては、日本マーケティング学会会長（第2代）を務めたほか、日本消費者行動研究学会会長、日本商業学会、日本広告学会、日本消費者行動研究学会などで理事を歴任。米国の消費者行動研究学会（ACR）でも研究成果を発表するなど、国内外の学会でリーダーシップを発揮しました。

また、経済産業省や特許庁などで政府の委員会委員や座長を務めるなど、政策立案への貢献も行っています。東京広告協会より白川忍賞特別功労賞を受賞するなど、実務界からの評価も高いです。

国際的な活動とその他

国際的にも積極的に活動しており、中華民国（台湾）や中国（北京大学、復旦大学）で招待講演を行ったほか、コロンビア大学ビジネススクールでの客員研究員・フェローとしての経験があります。

意外な一面としては、現代詩を愛好し、学生時代や電通勤務時に文芸活動に親しんでいたことが挙げられます。1991年には自身の詩作で神奈川県地球の詩コンクール「地球の詩」賞を受賞しています。また、元ソニー・ミュージックエンタテインメントのディレクターである田中章氏は実兄にあたります。

田中氏は、アカデミックな深みとビジネスの実践知を併せ持つ稀有な存在として、日本のマーケティング研究と実務の発展に大きく貢献し続けています。

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