田口益人

田口益人の生涯と業績

田口益人（たぐち の ますひと）は、飛鳥時代末期から奈良時代初期にかけて活動した貴族であり、歌人としても知られています。彼は田口朝臣という氏姓を持ち、正五位上の官位を有していました。益人は武内宿禰の子孫にあたる田口氏の出身であり、その家系は古代日本の貴族社会において重要な役割を果たしていました。

出自と経歴

田口益人の出自については、田口筑紫または田口豊嶋の子であるという説があります。彼の経歴には、重要な官職への昇進がいくつか記録されています。慶雲元年（704年）には従六位下から四階昇進し、従五位下に叙爵されました。その後、元明朝に入ると従五位上に昇格し、和銅元年（708年）には上野守として地方に赴任。次の年、和銅2年（709年）には右兵衛率に戻り京官として活動しました。

益人は元明朝の末期にあたる霊亀元年（715年）に正五位下から正五位上へと昇叙されています。彼は官職に従事する傍ら、詩も愛し、文人としての側面も持っていました。最後は、養老6年11月20日（723年正月）にその生涯を終えています。

詩人としての業績

田口益人は『万葉集』において2首の和歌が収められていることでも知られています。これらの歌は、上野国への赴任の途中で詠まれたものであり、地元の風景を背景にした情景描写が印象的です。特に、彼が詠んだ

「廬原の 清見の崎の 三保の浦の ゆたけき見つつ 物思ひもなし」

この歌は、自然の美しさを称えつつ、無心に思いを巡らせる情景が描かれています。その場所は、現在の静岡県静岡市清水区にある浄見埼のあたりで、時代を超えて多くの人々に親しまれている場所です。

もう1首は、

「昼見れど 飽かぬ田子の浦 おほきみの 命かしこみ 夜見つるかも」

この歌では、田子の浦の美しさとそれを見つめる心情が描かれ、天皇への思いも込められているようです。益人の詩は、当時の文化を理解する上で重要な資料となっています。

官歴とその意義

彼の官歴は、『続日本紀』に詳細に記録されており、彼の地位や役割を示しています。従六位下から始まり、従五位下、従五位上、そして上野守、右兵衛率と昇進が見られ、その後に正五位上へと昇ります。彼の官歴は、単に彼が生涯を通じて多くの役職を歴任したことを示すだけでなく、当時の貴族が持つ影響力の象徴でもあります。

田口益人の存在は、古代日本の政治と文化の交流の中での重要な一端を担っていたと言えるでしょう。その和歌は、彼がただの官吏ではなく、感性豊かな歌人でもあったことを物語っています。彼の歌は、自然や人々とのふれあいを通じて得た心の葛藤や喜びをうまく表現しており、現代においても多くの人々に感動を与えています。

もう一度検索