田辺一鶴

田辺一鶴：新作講談で時代を駆け抜けた講談師の生涯

田辺一鶴（たなべ いっかく、1929年2月9日 - 2009年12月22日）は、講談界にその名を刻んだ人気講談師である。東京都出身、本名は佐久間秀雄。長く伸びた白い顎ひげが特徴的で、「ひげの先生」として親しまれた。講談協会所属、常任理事、監事を歴任した彼の生涯は、新作講談の開拓と、幅広い活動によって彩られた。

新境地を開拓した新作講談

田辺一鶴は、古典講談にとらわれず、現代社会を題材にした新作講談に積極的に取り組んだ。1964年の東京オリンピックを題材にした『東京オリンピック』は、全参加国の国名を全て読み上げるという斬新な構成で話題となり、若年層にも多くのファンを獲得するきっかけとなった。

その後も、イチローや高橋尚子といった著名人を題材にした講談を創作し、高い評価を得た。『イチロー物語』は2001年にロサンゼルスで公演され、大きな反響を呼び、以後4年連続で渡米公演を行うなど国際的な活躍もみせた。さらに、旧友である漫画家の水木しげるを題材にした『水木しげる物語』も創作している。水木しげるのアパートに居候しながら彼の仕事を手伝っていたというエピソードは、二人の深いつながりを示している。

「イッカク書店」と多様な才能

講談師としての活動に加え、田辺一鶴は33年間、江戸川区平井に芸能関係の書籍のみを取り扱う古書店「イッカク書店」を経営していた。この書店は、多くの芸能関係者に愛され、独特の雰囲気を持つ場所として知られていた。

また、彼は将棋の腕前も高く、アマ五段の腕前を持つなど、多様な趣味や才能を持っていた。

多くの弟子と講談界への貢献

田辺一鶴は多くの弟子を育成し、講談界の発展に大きく貢献した。その門下からは、田辺鶴生、田辺南北、田辺鶴英、田辺一邑など、多くの講談師が輩出されている。また、彼の門下から独立したり、他の師匠のもとに移籍した講談師も多数いる。彼らが講談界で活躍する姿は、田辺一鶴の指導力と影響力の大きさを物語っている。

テレビ出演と多様な活動

田辺一鶴は、数々のテレビ番組にも出演し、その独特の語り口と存在感で視聴者を魅了した。NHKの番組をはじめ、フジテレビの『オールスター夢の球宴』や『3分勝負15ラウンド』などバラエティ番組にも出演。さらに、ドラマにも出演するなど、その活動は多岐に渡った。特に『オールスター夢の球宴』では、露崎元弥を彷彿とさせる主審役で出演したことが話題となった。

肺炎のため逝去

2009年12月22日、肺炎のため80歳で死去。その死は、講談界に大きな悲しみをもたらした。しかし、彼の残した作品と、弟子たちを通して、田辺一鶴の講談はこれからも人々の心に語り継がれていくことだろう。

系譜と関連人物

田辺一鶴の師匠は12代目田辺南鶴である。また、彼の門下生だけでなく、移籍した講談師や、独立した講談師、廃業した講談師、さらには大道芸人である田辺鶴和など、多くの関連人物が存在する。これらの関係者は、田辺一鶴の講談界における影響力の大きさを示している。

音楽活動

意外なことに、田辺一鶴はレコードもリリースしている。1972年にRCAレコードから発売された「ポークサラダ兄ィ／一鶴のある愛の詩」は、A面がトニー・ジョー・ホワイトの「ポーク・サラダ・アニー」、B面がフランシス・レイの「ある愛の詩」のカバーである。

田辺一鶴の生涯は、講談師としての活動にとどまらず、古書店経営、テレビ出演、音楽活動と多岐に渡り、その多彩な才能と人柄によって、多くの人々に愛された稀有な存在であったと言える。

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