田遊び

田遊びとは

田遊び（たあそび）は、日本の民俗芸能の一つで、稲作の過程を模倣する所作を通じて、その年の豊作を祈願する予祝（よしゅく）行事です。主に新春に行われることが多く、地域によって「御田（おんだ）」、「御田植祭（おたうえまつり）」、「春鍬（はるくわ）」、「春田打ち（はるたうち）」、「田祭り（たまつり）」など、様々な呼び名があります。

概要

田遊びは、種まきから刈り取りまでの一連の稲作作業を、模擬的に演じることを中心としています。新井恒易氏によると、全国には300を超える伝承が確認されており、地域ごとの特色が見られます。多くの田遊びでは、牛（または馬）による耕作の場面が見せ場となっており、人間がホロを被って牛に扮し、犂（すき）などを牽いて田起こしや代かきを模倣します。牛の人形や代替物を用いる場合もあります。牛が暴れる展開や、逆に牛を褒め労う演出など、内容は多岐にわたります。

折口信夫氏は、田遊びにおける牛は、本来は田の神への犠牲であり、それによって田の豊穣を祈願したのではないかという見解を示しています。

事例

例えば、東京都板橋区徳丸本町の北野天神社で毎年2月21日に行われる「徳丸の田遊び」は、『新編武蔵風土記稿』にも記録されている歴史ある行事です。神社境内に設けられたモガリと呼ばれる場所で、稲作の作業を模倣して演じられます。特に、農民たちの昼休みを模した「呼び込み」の場面では、予祝の意味を込めて男女が抱き合って舞い、性的な所作を行うことが特徴です。

また、東北地方の田植踊や、青森県八戸市のえんぶりなど、田遊びと共通の要素を持つ風流化した行事も存在します。

代表的な田遊び

以下は、日本各地で伝承されている代表的な田遊びです。

板橋の田遊び（東京都板橋区）：重要無形民俗文化財に指定されています。
鶴見の田祭り（神奈川県横浜市鶴見区）：横浜市登録地域無形民俗文化財です。
藤守の田遊び（静岡県焼津市）：重要無形民俗文化財に指定されています。
蛭ヶ谷の田遊び（静岡県牧之原市）：重要無形民俗文化財に指定されています。
滝沢の田遊び（静岡県藤枝市）：静岡県無形民俗文化財です。
三嶋大社のお田打（静岡県三島市）：静岡県無形民俗文化財です。
小國神社の田遊び（静岡県周智郡森町）：選択無形民俗文化財です。

これらの田遊びは、それぞれの地域で独自の発展を遂げ、今日まで受け継がれてきました。

参考文献

『郷土史大辞典 下』（朝倉書店、2005年）
星野紘「音楽的呪から身体演技へ」『身ぶりと音楽』（東京書籍、1990年）
「徳丸本村／徳丸脇村 天神社」『新編武蔵風土記稿』 巻ノ14豊島郡ノ6（内務省地理局、1884年）

関連項目

* 志多羅神上洛事件

田遊びは、日本の農耕文化と密接に結びついた、貴重な民俗芸能です。その多様な形式や表現は、地域ごとの歴史や文化を反映しており、日本の文化遺産として後世に継承していくべきものです。

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