甲山寺

甲山寺：空海ゆかりの歴史と自然に抱かれた四国八十八ヶ所第七十四番札所

香川県善通寺市に位置する甲山寺は、真言宗善通寺派に属する寺院であり、四国八十八箇所霊場の第七十四番札所として広く知られています。医王山多宝院と号し、本尊は薬師如来です。甲山という小高い山のふもとに建立されており、自然豊かな環境に恵まれた霊場となっています。

伝説と歴史

甲山寺の創建には、空海の伝説が深く関わっています。壮年期の空海が、幼少期に遊んだこの地を訪れた際、老翁から寺の建立を勧められたと伝えられています。その老翁は、この地の岩窟に鎮座する毘沙門天の化身だったと空海は悟り、岩窟に毘沙門天を祀ったのが始まりとされています。

その後、空海は嵯峨天皇の勅命を受け、満濃池の修築工事に携わります。この地で薬師如来を刻み、修法を行ったところ、数万もの人々が集まり、工事は無事完成しました。弘仁12年（821年）、その功績を朝廷から認められ、二万銭の褒賞が与えられ、その一部を用いて堂宇が建立されたことが、甲山寺の起源とされています。

天正年間には兵火に見舞われ、本尊とわずかの寺宝しか残らず、荒廃した状態が続きました。しかし、享保20年（1730年）には本堂、寛保2年（1742年）には大師堂が再建され、徐々に復興を遂げました。『四国遍礼名所図会』（1800年刊）の挿絵には、現在の伽藍に近い姿が描かれています。

甲山と境内

甲山（標高87.2m）は、室町時代には天霧城の出城があったと伝えられています。山頂には石舞台跡があり、神武天皇と孝明天皇にまつわる石碑も存在します。また、甲山寺から山頂へ続く山道には、江戸時代末期に建立された西国三十三所の石仏が並んでいるなど、歴史を感じさせる要素が豊富です。

境内には、2008年に落慶された山門、旧山門を改築した中門、本尊を拝観できる本堂、大師像が開帳される大師堂、護摩堂、多聞天堂などがあります。多聞天堂は、境内左奥の岩窟内に毘沙門天が祀られており、空海の伝説と深く関わっています。その他、子安地蔵や淡島大明神なども祀られています。境内には、本尊脇仏の月光菩薩の持物に描かれているウサギを模した像が16羽も配置され、独特の雰囲気を醸し出しています。伽藍配置は、山門から本堂、大師堂、多聞天堂へと自然な導線が確保されています。

アクセスと情報

甲山寺へのアクセスは、JR四国土讃線善通寺駅から約3.6km、高松自動車道善通寺ICから約4.5kmです。無料の大駐車場が山門前に用意されています。宿坊はありません。

納経印は、本尊、多聞天堂毘沙門天、そしてウサギの3種類あり、それぞれに趣向を凝らしたデザインとなっています。ご詠歌は「十二神味方に持てる戦には　おのれとこころ甲山かな」と、力強い言葉で、甲山寺の信仰の深さを伝えています。本尊真言は「おん ころころ せんだりまとうぎ そわか」です。

歴史、伝説、自然、そして信仰が融合した甲山寺は、四国八十八ヶ所巡礼の旅において、忘れがたい思い出となるでしょう。

もう一度検索