畑から戻る農夫たち

『畑から戻る農夫たち』について

ピーテル・パウル・ルーベンス作『畑から戻る農夫たち』（伊: Ritorno dei contadini dai campi、英: The Peasants Returning From The Fields）は、17世紀フランドルの巨匠ルーベンスが、1635年頃に板上に油彩で描いた風景画です。本作は、対作品とされる『パイエーケス人の島に漂着したオデュッセウス』とともに、長い歴史を経て現在フィレンツェのパラティーナ美術館に所蔵されています。

歴史的背景

この作品は、1677年にリシュリュー公爵のコレクションに収蔵されていた記録があります。その後、メディチ家断絶後にトスカーナ大公国を継承したロレーヌ家によって、1765年にフィレンツェにもたらされました。1799年には、フランスの委託者により一時的にパリに運ばれましたが、1815年の終わりまでにはフィレンツェに戻されました。この間、カノーヴァとカルシェールによって詳細な記録が残されています。

制作年代について

制作年は、1620年から1635年の間で諸説ありますが、1635年に本作の複製が制作されており、そこには制作者の署名と制作年が記されています。有力な説では、1630年代初期の制作とされていますが、1632年から1634年とする研究者もいます。この場合、ルーカス・ファン・ウーデンとの共同制作であった可能性も指摘されています。また、ルーベンスの最晩年の1640年の制作とする研究者もいます。ルーベンスは、画中の荷車のために2点の準備素描を制作しており、デヴォンシャー公爵のコレクションにある素描は右側に1台の荷車を、ベルリン銅板画ギャラリーにある素描は2台の荷車を描いています。さらに、本作の右側から2番目の女性と、ウフィツィ美術館の素描・版画室にある女性の素描に共通点が見られます。一方で、右側の5人の人物は、ウィーンのアルベルティーナにある模写素描にも見られます。

作品の特徴

本作の主役は、広大で詩的な風景です。牧歌的な場面は風景を描くための口実に過ぎないとも言えます。高い視点から見下ろした構図は、木々と地平線によって区切られ、低い地平線と広大な眺望が空間の広がりを強調しています。風の動きや空の色、光の変化まで感じさせるような描写は、ルーベンスの卓越した技術を物語っています。ルーベンスは、本作と対作品において、ニコラ・プッサンやクロード・ロランから学んだことを活かしているとされます。

小さく描かれた農民たちの姿は、ピーテル・ブリューゲル（父）の風俗画を彷彿とさせます。耕作地から帰宅する農夫たちや、馬に乗る男の荷車、羊の群れなど、農村の日常風景が丁寧に描かれています。特に、干し草を運ぶ2人の女性の間には、画家の修正の跡が確認できます。本作は、メヘレンの風景を描いたものと考えられており、黄金色に染まった自然の清澄なヴィジョンとして解釈されています。空には剥き出しのキャンバスの溝があり、画面下半分に見える対角線と呼応しています。

文化的意義

『畑から戻る農夫たち』は、ルーベンスが風景画家としても優れていたことを示す傑作です。本作は、17世紀のフランドル絵画における風景画の発展に大きな影響を与えました。また、ルーベンスの描く農民たちの姿は、当時の農村生活を生き生きと伝えてくれます。

まとめ

ルーベンスの『畑から戻る農夫たち』は、単なる風景画にとどまらず、17世紀の農村生活や自然の美しさを描いた傑作です。ルーベンスの卓越した技術と色彩感覚によって、見る者は広大な風景の中に引き込まれます。本作は、美術史における重要な作品であり、現在も多くの人々を魅了し続けています。

参考文献

『ルーベンス　栄光のアントワープ工房と原点のイタリア』、Bunkamuraザ・ミュージアム、毎日新聞社、TBS、2013年刊行
Chiarini, Marco (1998). Palazzo Pitti, galleria Palatina e Appartamenti Reali. Livorno: Sillabe. ISBN 978-88-86392-48-8

外部リンク

* Catalogo generale dei Beni Culturaliサイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『畑から戻る農夫たち』 （イタリア語）

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