登録コサック
登録コサック：ポーランド・リトアニア共和国の軍事力と変遷
登録コサック（ウクライナ語：Реєстрові козаки；ポーランド語：Kozacy rejestrowi）は、16世紀後半から17世紀にかけて、ポーランド・リトアニア共和国政府によって組織されたコサック部隊です。政府が作成した特別な登録台帳に登録されたコサックであり、公式に軍役を務めることを義務付けられていました。その起源から、コサック国家への移行、そして現代における復活まで、その歴史を詳細に解説します。
概要
登録コサックは、コサック運動の拡大を抑制する目的で編成され、共和国の貴族に匹敵する特権を与えられました。1648年以降はコサック国家へ移行し、18世紀末まで同国の貴族階級として存続。コサック国家滅亡後は、ロシア帝国の貴族となりました。「登録衆（Реєстровці）」とも呼ばれます。
最初の登録コサックは、1572年6月にジグムント2世の命令によって編成された300人の銃兵部隊でした。登録コサック以外のコサックは「非登録コサック」と呼ばれ、政府からは盗賊と見なされました。登録コサック軍団は「ザポロージャのコサック軍」（Військо Запорозьке）を正式名称とし、モスクワ大公国とクリミア・ハン国との国境防衛、およびウクライナにおける反乱鎮圧を任務としました。軍団は登録コサックの軍長（старший）によって統括され、初代軍長には貴族のヤン・バドーウシクィイが任命されました。
発展と役割
1578年、ステファン・バートリ王はリヴォニア戦争の長期化に伴い、登録コサックを600人まで増員しました。構成員の8割は正教徒のルーシ人小貴族で、彼らは一生の軍役と引き換えに、自由権、自治権、土地所有権、行政権、裁判権などの特権を与えられ、税金が免除されました。さらに、国からの給与が支給され、平時には職業と貿易の自由が認められました。トラフテムィーリウ町が登録コサック軍に下賜され、そこには工廠と病院が設置されました。登録コサックは、全軍の会議で自らの長官と軍長を選出することができ、大砲、標章（戦棍、軍印、軍旗）、ティンパニなどを軍の宝物として保有していました。
1620年代から1630年代にかけて、ポーランド・リトアニア共和国の内外における戦争の拡大により、登録コサックの人数は3,000人から8,000人まで増加しました。この時代には、コサックの銃兵に加えて軽装騎兵が発達。登録コサックは、イスラムのオスマン帝国とクリミア・ハン国からウクライナを防衛する役割を担う一方で、ウクライナにおける反政府蜂起の鎮圧にも従事しました。しかし、17世紀以降、貴族による権利侵害や給与の未払いなどが原因で、非登録コサックが指揮する反乱に加わることもありました。
フメリニツキーの乱とその後
1648年、フメリニツキーの乱が発生すると、登録コサックの全軍はボフダン・フメリニツキーが率いるコサック反乱軍に味方しました。1649年にポーランド・リトアニア共和国とコサック反乱軍が締結したズボーリウ条約により、登録コサックは40,000人まで増加されました。しかし、条約が履行されなかったため、フメリニツキーは共和国からの独立を目指し、コサック国家を建設する政策を推進。これにより、登録コサックの多くが共和国側から離反しました。
17世紀末、ポーランド・リトアニア共和国は、絶え間ないコサックの反乱を理由に登録コサックを廃止しました。しかし、ウクライナのコサック国家では登録コサックが存続し、多くがウクライナの町村に駐屯していたことから、「町内コサック（городові козаки）」と呼ばれました。これは、シーチに住む「シーチ・コザック（січовики）」と対比されます。1735年以降、「町内コサック」は「選定コサック（виборні козаки）」と呼ばれるようになり、貴族化が進みました。
ロシア帝国への編入と現代の動き
18世紀末、ロシア帝国がコサック国家を滅ぼした後、登録コサックはロシアの貴族の権利を獲得し、階級として消滅しました。貧困層のコサックは、ドナウ・コサックやクバーニ・コサックなどに合流しました。
ソ連崩壊後、ロシアをはじめとする地域でコサックの復活の動きが高まる中、ウクライナでも2002年に「ウクライナ登録コサック」（uk:Українське реєстрове козацтво）が結成されました。約7万人の会員を擁し、200以上の団体が存在すると言われるウクライナのコサック組織の中では最大規模です。ギリシャ系ウクライナ人など、ディアスポラの会員が多いのが特徴です。
著名な登録コサック
クシシュトフ・コスィーンシキー（? - 1593年）
ペトロー・サハイダーチュヌィイ（1570年 - 1622年）
ボフダン・フメリニツキー（1595年 - 1657年）
参考文献
伊東孝之, 井内敏夫, 中井和夫編 『ポーランド・ウクライナ・バルト史』 (世界各国史; 20)－東京: 山川出版社, 1998年. ISBN 9784634415003
黒川祐次著 『物語ウクライナの歴史 : ヨーロッパ最後の大国』 (中公新書; 1655)－東京 : 中央公論新社, 2002年. ISBN 4121016556
外部リンク
（ウクライナ語） 登録コサック // Довідник з історії України. За ред. І. Підкови та Р. Шуста. — Київ: Генеза, 1993.
* （英語） 登録コサック //ウクライナ百科事典
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