白ナイル川

アフリカ大陸北東部を流れる白ナイル川は、ナイル川を形成する二つの主要な支流のうちの一つです。エチオピア高原からの青ナイル川と合流し、世界有数の大河であるナイル川の本流となります。ナイル川全体の水量のうち、約2割を白ナイル川が担っています。

白ナイル川の範囲には二つの捉え方があります。より狭義には、南スーダンのノ湖で二つの川が合流してから、スーダンの首都ハルツームで青ナイル川と合流するまでの区間を指します。一方、広義では、源流であるヴィクトリア湖から始まり、ウガンダ国内を北上し、南スーダンのバハル・アル＝ジャバル川を経てハルツームに至る全長約3700kmに及ぶ広大な水域全体を含みます。

流路

源流部

白ナイル川の最も遠い源流は、ヴィクトリア湖を中心とする東アフリカの高原地帯にあります。ヴィクトリア湖に流れ込む河川の中で最も長いとされるタンザニアのカゲラ川が、ナイル川全体の水源として最も距離的に遠い地点に位置すると考えられています。カゲラ川は、ブルンジに源を発するルヴィロンザ川や、ルワンダのニュングウェ国立公園からのニャバロンゴ川など、いくつかの支流が集まって形成されます。

19世紀の探検家ジョン・スピークは、ヴィクトリア湖の流出口に「リポンの滝」と命名し、かつてはこの滝がナイル川の起点と見なされていました。しかし、下流に発電用ダムが建設されたため、リポンの滝は現在では水没しており、その場所にはスピークの業績と滝の消失を示す石碑が建てられています。

ウガンダ

ヴィクトリア湖から流れ出る区間はヴィクトリア・ナイルとも呼ばれ、約420kmにわたります。この区間にはナルバーレ水力発電所やキーラ水力発電所、ブジャガリ滝（ブジャガリ水力発電所）など、水力発電施設が設けられています。川は北へ流れた後、西へと向きを変え、キオガ湖やクワニア湖を経由します。さらに下流にはカルマ滝や、重要な交通路であるカルマ橋があります。その後、川はグレート・リフト・バレーの西側にあるマーチソン・フォールズ国立公園内へと入ります。公園内には、幅7m、落差43mの雄大なマーチソン滝があり、この滝壺や下流の水域にはワニやカバなどの野生動物が多く生息しています。ヴィクトリア・ナイルは最終的にアルバート湖に注ぎます。

アルバート湖の先の下流部はアルバート・ナイルと呼ばれ、約210km続きます。かつてはザイール（現コンゴ民主共和国）の大統領にちなんでモブツ・ナイルと呼ばれたこともありました。このアルバート・ナイルの西岸がウガンダの西ナイル地方にあたり、ネビ県にはこの川を渡る唯一の橋があります。アジュマニとモヨの間ではフェリーも運行されています。

南スーダン

アルバート・ナイルはニムレ付近で南スーダン領に入り、ここからバハル・アル＝ジャバル川（アラビア語で「山の川」の意）として南スーダンを北上します。川は首都ジュバを通過し、広大なスッドと呼ばれる湿地帯へと流れ込みます。スッドは乾季でも約30,000km²、雨季には130,000km²にも広がる巨大な湿地帯で、航行を妨げると共に、大量の河水が蒸発によって失われるため、白ナイル川の水量はここでほぼ半減します。スッドの内部で、バハル・アル＝ジャバル川は南西からのバハル・エル＝ガザル川（「ガゼルの川」の意）と合流し、この合流地点にあるノ湖から下流が狭義の白ナイル川とされています。

南スーダン国内でバハル・アル＝ジャバル川に架かる恒久的な橋は、長らくジュバ市内のジュバ橋のみでしたが、老朽化と容量不足が課題でした。日本の国際協力機構（JICA）による無償資金協力により、南スーダン初のアーチ型鋼橋である「フリーダム・ブリッジ」が建設され、2022年に開通しました。全長560mのこの橋は、国の重要な交通インフラとなっています。スッド湿地帯は、その独特な生態系からラムサール条約にも登録されています。ノ湖を下った白ナイル川は、マラカルの南でソバト川と合流します。

スーダン

ソバト川との合流点からスーダン領を北上し、白ナイル州を経てハルツームを目指します。この約800kmの区間は、高低差がわずか8m程度と非常に緩やかな流れとなります。そのため、川幅は500mから数kmと広がり、大きな起伏なく河水は流れていきます。南スーダン国境に近いコスティの西側には、アブ・ハビル川の内陸三角州が広がっており、ここではバオバブやアカシアなどが生え、雨季には多くの池が出現します。この一帯は絶滅危惧種を含む多様な動物が生息しており、スッド湿地などと共にラムサール条約に登録されています。白ナイル川は、スーダンの首都ハルツームで青ナイル川と合流し、ナイル川の本流となります。

歴史

白ナイル川という名前は、運ばれてくるシルトや粘土質のために水の色が白く濁って見えたことに由来するとされています。

19世紀に入ると、ナイル川の源流を探る探検が盛んに行われるようになります。特に白ナイル川の源流は、青ナイル川よりもその発見が遅れました。リチャード・バートン、ジョン・スピーク、ジェイムズ・グラントといったヨーロッパの探検家たちが、この未知の領域を目指し、競争を繰り広げました。

イギリス外務省と王立地理学協会の依頼を受けたスピークとバートンは、1857年にタンザニアを出発し内陸部へ向かいました。数々の困難を乗り越え、1858年2月にヨーロッパ人として初めてタンガニーカ湖に到達します。スピークはタンガニーカ湖がナイル源流ではないと考え、バートンと別れて探索を続け、広大な湖を発見しました。彼はこの湖をイギリスの女王に敬意を表して「ヴィクトリア湖」と名付け、ここがナイルの源流であると確信しました。一方のバートンは別の湖を源流と考えたため、帰国後に激しい論争が巻き起こります。

スピークは自説を証明するため、1860年に再びアフリカへ向かい、1862年7月にヴィクトリア湖の北岸に到達しました。そこで湖から流れ落ちる滝を発見し、王立地理学協会の会長の名を取って「リポンの滝」と命名しました。リポンの滝の発見は大きな成果とされましたが、その後もヴィクトリア湖に注ぐ河川のさらに奥地の探索が続けられ、20世紀初頭にはルヴィロンザ川がナイルの最も遠い源流の一つとして確認されました。

これらの19世紀におけるナイル源流探検は、「暗黒大陸」への文明の到達としてヨーロッパで大々的に喧伝され、その後のヨーロッパ列強によるアフリカの植民地化に少なからぬ影響を与えました。

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