白金長者屋敷

白金長者屋敷の概要

白金長者屋敷、別名白金館・白金城は、東京都港区白金台の国立科学博物館附属自然教育園内にある、中世の城館跡とされる遺跡です。1949年に国の天然記念物および史跡に指定され、その歴史的価値が認められています。

この遺跡は、渋谷川（古川）南岸の標高32メートルの台地上に位置し、自然豊かな森林に覆われています。東西400メートル、南北500メートルにも及ぶ広大な敷地を囲むように、断面が三角形の土塁が築かれています。

城域内には、北側の低地から3つに枝分かれした谷戸が入り込んでおり、土塁はこの谷戸の開口部を堰き止めるように構築されています。そのため、城域の中央部分は凹んだ地形となっています。また、谷戸によって形成された舌状台地の一つには、コの字型の土塁で囲まれた区画があり、ここが主郭、つまり居館跡と考えられています。この居館跡の一部は、東京都庭園美術館の敷地にもまたがっています。

白金長者と伝承

江戸時代の地誌『新編江戸志』や『御府内備考』には、南北朝時代から室町時代初期にかけての応永年間（1394年-1428年）に、柳下上総介という人物がこの地に館を構え、大量の銀を所有していたことから「白金長者」と呼ばれたという伝承が記されています。しかし、この伝承が史実に基づいているかどうかは、明確にはなっていません。

近世以降の変遷

江戸時代には、1664年に高松藩主・松平頼重の下屋敷となり、その後、明治時代に国有化されました。1875年以降は旧海軍の火薬庫として利用され、1917年には宮内省管轄の白金御料地となりました。このような歴史的な経緯から、現在残る土塁などの遺構は、建設当時の状態から改変されている可能性も指摘されています。また、防御施設としての構造から、伝承される中世の城館遺構そのままとは考えにくいという見解もあります。

発掘調査の状況

港区教育委員会などは、江戸時代に編纂された地誌を根拠として、この地を中世城館として認定していますが、これまでの発掘調査では、中世に遡る明確な遺構は発見されていません。ただし、1986年から1987年にかけての調査で発見された薬研堀状の溝遺構や、2010年から2014年にかけての調査で見つかった溝遺構については、中世末期、または少なくとも江戸時代前期以前に造られた可能性があると指摘されています。

白金長者屋敷は、その歴史的背景や伝承、そして発掘調査の結果から、多くの謎に包まれた遺跡です。今後の調査によって、更なる実態解明が期待されます。

参考文献

平井聖ほか 1979「白金長者屋敷」『日本城郭大系』第5巻（埼玉・東京）新人物往来社 pp.244-245
髙山優 2019「江戸時代の地誌と中世遺跡」『港区と考古学-未来へ続く、遺跡からのメッセージ-』港区立郷土歴史館 p.68
* 国立科学博物館附属自然教育園飛び地調査委員会 2021「6.発掘等調査の成果」『国立科学博物館附属自然教育園飛び地にかかる調査報告書〈資料編〉史跡にかかる個別調査報告』国立科学博物館附属自然教育園 pp.90-98

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