白鳥敏夫

白鳥敏夫：激動の時代を駆け抜けた外交官

生涯

白鳥敏夫は、1887年（明治20年）に千葉県で生まれました。東京帝国大学卒業後、1914年に外務省に入省。初期はアメリカでの勤務や情報部での活動を通じて、外交官としてのキャリアを積み重ねました。しかし、満洲事変を機にその外交姿勢は大きく変化し、国際協調よりも国益を優先する強硬な姿勢へと傾斜していきます。

満洲事変と強硬外交への転換

1930年代に入ると、白鳥は満洲事変において、国際連盟の調停を拒否し、アメリカとの対立も辞さない強硬な姿勢を示しました。彼の外交方針は、当時外務省主流派であった幣原外交とは対照的で、軍部との連携を深める中で、次第に反英米、反国際協調的な思想を強めていきます。外務省内部では、外交政策を検討する「考査部」の設立を主張し、若手官僚からの支持を集めましたが、その強硬な姿勢は、多くの外交官や政治家との対立を生みました。1933年には、スウェーデン公使として海外に赴任することになりましたが、これは、彼の影響力をそぐための事実上の左遷と見られています。

日独伊三国同盟への関与

スウェーデン公使時代、白鳥は駐ドイツ陸軍武官の大島浩と連携し、日独伊三国同盟の成立を主導しました。本国政府がソ連を対象とした同盟を想定していたにも関わらず、白鳥は英米を牽制する目的で、ドイツの要求に沿うように同盟を推進。その強引な外交手法は、政府内外から強い批判を浴びました。特に、同盟交渉が停滞すると、本国政府に圧力をかけ、独伊の要求を優先するよう主張しました。この行動は、天皇の怒りを買い、政府内でも大きな問題となりました。

開戦と晩年

三国同盟締結後、白鳥は一時帰国し、活発な言論活動を展開しました。ドイツ有利の戦況を主張し、アメリカとの開戦を煽るような発言を繰り返しました。しかし、彼の過激な言動は、次第に周囲からの反発を招き、精神を病んで入院することとなります。戦時中には衆議院議員に当選しますが、その言説は「精神病的人物」と揶揄されるほどでした。戦後、白鳥はA級戦犯として逮捕され、東京裁判で終身禁固刑の判決を受けました。獄中で喉頭癌を患い、1949年に亡くなりました。

晩年の転向と評価

特筆すべき点として、白鳥は晩年、キリスト教に改宗し、日本国憲法に影響を与えたともされる、独自の平和主義的な憲法改正案を書き残しています。これは、彼が戦前と戦後で大きく思想を変化させたことを示唆するものです。白鳥の生涯は、その強硬な外交姿勢と、晩年の思想的転換という、複雑な側面を持っています。その功績と過ちの両面から、歴史的な評価が求められています。

人物像

白鳥は、卓越した語学力と実務能力を持つ一方で、非常に攻撃的な性格であり、多くの敵を作りました。その外交姿勢は、時に独断専行に走り、本国政府の指示を無視することもあったため、周囲の反感を買いやすい人物でした。しかし、その一方で、自身の信念を貫き通す強さも持ち合わせており、その行動は多くの議論を呼びました。

家族

叔父に東洋史学者の白鳥庫吉、同じく叔父に外務大臣を務めた石井菊次郎がいます。また、義兄に出淵勝次がおり、息子に白鳥正人がいます。

栄典

1914年（大正3年）9月21日 - 従七位
1917年（大正6年）7月20日 - 正七位
1920年（大正9年）1月30日 - 従六位
1922年（大正11年）6月20日 - 正六位
1925年（大正14年）4月15日 - 従五位
1930年（昭和5年）5月1日 - 正五位
1934年（昭和9年）11月1日 - 従四位
1938年（昭和13年）10月15日 - 正四位
1940年（昭和15年）9月19日 - 従三位

勲章等

1920年（大正9年）11月1日 - 勲五等瑞宝章
1924年（大正13年）5月20日 - 勲四等瑞宝章
1926年（大正15年）2月10日 - 旭日小綬章
1931年（昭和6年）- 勲三等瑞宝章
1931年（昭和6年）10月21日 - 銀杯一組
1934年（昭和9年）- 勲二等瑞宝章
1940年（昭和15年）4月29日 - 旭日重光章
1940年（昭和15年）8月15日 - 紀元二千六百年祝典記念章
1946年（昭和21年） - 勲二等旭日重光章返上

参考文献

ワシーリー・モロジャコフ (2010). “ソ連と三国軍事同盟――再検討の試み”. 平成22年度戦争史研究国際フォーラム報告書.
戸部良一『外務省革新派―世界新秩序の幻影』中公新書、2010年。ISBN 978-4121020598。

関連項目

日独伊三国同盟
A級戦犯
* 革新官僚

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