白鹿城の戦い

白鹿城の戦いは、永禄6年（1563年）8月から10月にかけて、毛利氏と尼子氏の間で繰り広げられた攻城戦です。舞台となった白鹿城は、現在の島根県松江市法吉町に位置しています。

合戦までの経緯

16世紀前半、中国地方では大内氏と尼子氏の対立が激化していました。しかし、1551年の大寧寺の変で大内義隆が家臣の陶晴賢に殺害されると、勢力図は大きく変化します。この混乱に乗じて台頭したのが、安芸国を拠点とする毛利氏でした。

毛利元就は、1555年の厳島の戦いで陶晴賢を破り、1557年には大内氏を滅ぼして周防・長門の二国を支配下に置きました。さらに、備中国を平定し、1562年には尼子氏の石見国における拠点である山吹城を攻略して石見銀山を掌握、石見国も支配下に収めました。

一方、尼子氏は大寧寺の変以降、石見方面に勢力を拡大していましたが、1561年に当主の尼子晴久が急死。後を継いだ尼子義久の外交政策の失敗などにより、勢力は次第に衰退していきました。1562年頃には、尼子氏の支配領域は出雲国、隠岐国、西伯耆の一部のみとなっていました。

1562年、毛利元就は尼子氏を滅ぼすため出雲に進軍を開始し、尼子方の国人たちを次々と服従させながら、1563年には島根半島の荒隈（洗合）に本陣を構え、尼子氏の居城である月山富田城攻めを開始しました。元就はまず、月山富田城の補給路を絶つ戦略を取りました。

しかし、1563年8月、元就の長男であり毛利家当主であった毛利隆元が急死するという悲報が届きます。老境に差し掛かり、後継者である輝元が幼少であった元就にとって大きな痛手でしたが、元就は白鹿城攻略のため進軍を続けました。

白鹿城の戦い

白鹿城は、毛利軍の本陣から北へ約4kmの距離に位置し、日本海に面した島根半島と月山富田城を結ぶ要衝でした。尼子氏の主要な城である「尼子十旗」の第一とされ、日本海方面からの補給路を確保する上で重要な拠点でした。

毛利軍は白鹿城を包囲し、補給路を断つ作戦を展開。1563年8月13日には総攻撃を開始しました。最初の戦いでは、毛利軍の将である出羽中務少輔の抜け駆けがきっかけとなり、尼子軍の反撃を受け毛利軍は大きな損害を被りました。しかし、援軍として吉川元春らが到着し戦況は互角となり、さらに杉原盛重の援軍も加わると、尼子軍は城内へと退却しました。

毛利軍は外郭を制圧しますが、その後は決定的な攻め手を欠き、戦いは膠着状態に陥ります。元就は9月上旬に一部兵を残し、同じく尼子十旗の熊野城を攻略するため進軍しますが、熊野城の戦いでは尼子軍の奮戦により敗北を喫し、白鹿城へと撤退しました。

白鹿城では、毛利軍の主力が熊野城へ移動したことで包囲が弱まり、尼子軍が反撃に出ますが、毛利軍の包囲を破ることはできませんでした。その後、毛利軍は石見銀山の銀掘り衆を呼び寄せ、坑道を掘って城内への侵入を試みますが、尼子軍も坑道を掘って対抗しました。坑道内での激しい戦闘が繰り広げられるも、決着はつかず、両軍は撤退しました。

9月下旬、尼子義久は白鹿城を救出するため尼子倫久に大軍を預け救援に向かわせましたが、10月23日、毛利軍との戦いに敗れました。これにより白鹿城の趨勢は決定的となり、10月中旬、3ヶ月にわたる包囲の末、城内の兵糧・水が欠乏し、救援も絶望的となったことから、尼子軍はついに降伏しました。城主の松田誠保は隠岐へ逃亡、牛尾久清は月山富田城へ移送、普門西堂は自害しました。

合戦後の影響

白鹿城の陥落は、尼子軍にとって大きな痛手となりました。日本海からの補給路を絶たれた尼子氏は、中海方面の補給路を確保しようとしますが、伯耆方面でも毛利軍に敗北。これにより、尼子氏の居城である月山富田城は完全に孤立しました。そして、1565年、毛利軍による月山富田城攻めが開始されることとなります。

補説・逸話

白鹿城の戦いには、数々の逸話が残されています。例えば、二の城戸を守備していた僧兵の普門西堂は、地元住民からも恐れられる剛勇の士であったこと、尼子軍が毛利軍を欺くために、馬に白米と灰を混ぜたものを振りかけて、城内の水が枯渇していないように見せかけたことなどが語られています。

また、戦いの最中には、毛利軍の将が出羽中務少輔が尼子軍に短歌を送ったこと、若林兄弟という兄弟が母親に叱咤され奮戦したこと、日野甚太夫孝貞が鉄砲の名人を挑発したことなど、数々のエピソードが残っています。これらの逸話は、当時の武士たちの勇猛さや、戦場の悲哀を物語っています。

さらに、この戦いでは、銃撃戦が主体であったことが、残された軍忠状から分かります。特に坑道戦では、両軍が激しく戦った様子が伝えられています。毛利軍は、銀掘り衆を動員して坑道を掘り進み、尼子軍もそれに対抗して坑道を掘り進みました。その結果、両軍が坑道内で鉢合わせ、激しい戦いを繰り広げたという記録も残っています。

参戦武将

毛利軍
毛利元就（吉田勢）
吉川元春（吉川勢）
熊谷隆直（熊谷勢）
出羽中務少輔（出羽勢）
杉原盛重（杉原勢）
小早川隆景（その他勢）

尼子軍
松田誠保（松田勢）
牛尾久清（牛尾勢）
* 常福寺普門西堂（門徒・百姓勢）

まとめ

白鹿城の戦いは、戦国時代の中国地方における覇権争いの重要な一局面でした。この戦いで毛利氏が勝利したことにより、尼子氏は大きく勢力を弱め、その後の滅亡へと繋がっていくことになります。この戦いでは、戦略、戦術、そして武士たちの勇猛さが複雑に絡み合い、後世に多くの物語を伝えています。

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