百錬抄

百錬抄（ひゃくれんしょう）

『百錬抄』は、鎌倉時代後期、特に13世紀末に成立したとされる日本の歴史書です。この書は、公家の私日記など多様な記録を抜粋し、編集したものであり、当時の朝廷の様子や文化、出来事について詳細に記されています。著者は不明ですが、勧修寺流吉田経房の文献が多数引用されていることから、同流の関係者が編集に関与していた可能性が高いと考えられています。

書名の「百錬」は、中国の詩人白居易の「百練鏡」に由来するとも言われ、元々は「練」の字が使われていましたが、江戸時代以降は「錬」が用いられています。この書は全17巻から成り立っているものの、巻の一から三は欠失しています。残る巻は、968年から1260年にかけての出来事を年ごとに記した編年体の形で、漢文にて綴られています。

『百錬抄』が有用な資料である理由は、約300年の京の事情を知る上で非常に優れた情報源となるからです。具体的には、後深草天皇が譲位した天元元年で筆を置いていますが、その後、深草天皇は本文中で「新院」と呼ばれるため、本書の原本が完結したのは亀山天皇の時代であると考えられています。また、この書物は安定的な修正が加えられた後、金沢文庫本が作成される前には完成していたと推測されています。

内容としては、巻四から七までは信西の『本朝世紀』からの抄出であり、この書自体の散逸も見られるため、非常に貴重な存在です。その後は平親範の記録や、吉田経房とその子孫の日記が引かれています。特に巻八から巻十五には、各天皇の治世を区切った形で綴られており、特定の天皇ごとに詳細な情報が提供されています。

また、京の様子を中心とした記録が多く、武士階層の歴史書『吾妻鏡』とは対照的です。江戸時代には、国学者の塙保己一が数種の古本を底本に用いて、1803年に刊本を発行しました。現在から見ても、重要な歴史文献であるとされています。

さらに、『百錬抄』は、1185年に発生した文治地震の記録をも含むなど、当時の自然災害に関する情報も記されています。このように、歴史の中での実際の出来事や脈絡を詳細に知ることができる価値ある文献です。

そのため、本書は京都に関する歴史を研究する際に欠かせない資料として位置づけられています。日本の歴史を知る上で、このような公家の日記が持つ意味は、今なお重要なものとして評価されています。

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