吉田経房

吉田経房について

吉田経房（よしだ つねふさ）は、平安時代後期から鎌倉時代初期にかけて活躍した公卿です。藤原北家勧修寺流の出身で、父は権右中弁・藤原光房です。官位は正二位・権大納言にまで至りました。また、源頼朝の鎌倉政権（後の鎌倉幕府）より初代関東申次に任ぜられ、朝廷と幕府の連絡役として重要な役割を果たしました。吉田家（後の甘露寺家）の祖としても知られています。

生涯

久安6年（1150年）、わずか9歳で従五位下・侍従に任官したのが経房の最初の記録です。翌年には兄の信方が急死したため、その代わりに伊豆守を7年間務めています。その後、後白河天皇の姉である上西門院や妃の建春門院の側近として仕え、また六条・高倉両天皇の蔵人を務めたことから、平清盛の知遇を得ます。

平氏政権下では実務官僚として活躍し、嘉応2年（1170年）に左少弁に任ぜられ、三事兼帯となりました。その後も各弁官や内蔵頭を歴任し、治承三年の政変直前には蔵人頭に昇進します。安徳天皇が即位して高倉上皇が院政を開始すると、蔵人頭と新院の院別当を兼務しました。

養和元年（1181年）に参議に昇進し、その2年後には従三位に叙せられます。この頃から、経房は源頼朝の友人として名前が浮上します。平氏政権下で順調に出世してきた経緯から、なぜ頼朝と親密になったのかは不明瞭な点もありますが、経房が伊豆守であった際に頼朝の義父・北条時政と交流があったとする説や、2人が上西門院の側近であったという説があります。また、経房が安房守を歴任していた関係から、石橋山の戦いで敗れた頼朝が安房国に逃れた際に、事前に経房の許可を得ていたとする説も存在します。

頼朝は経房を「うるわしい人」「廉直な貞臣」と評しており、元暦元年（1184年）には頼朝の要請で権中納言に昇進しました。これを機に、頼朝からの朝廷や院への要請は、多くが経房を経由して行われるようになります。これが鎌倉幕府における関東申次の始まりとされています。守護・地頭の設置や源義経の追討といった重要な要請も、実際には経房を通して朝廷に伝えられました。

文治元年（1185年）には議奏・大宰権帥、建久元年（1190年）には民部卿に任命され、翌年には正二位に叙されています。この間に、平維盛の未亡人であった新大納言局を後室としています。建久6年（1195年）には中納言に昇進し、建久9年（1198年）には権大納言にまで昇進しましたが、翌年に頼朝が没すると経房も体調を崩し、正治2年（1200年）に出家して経蓮と号しましたが、間もなく病没しました。

文化人としての側面

経房は文化人としても知られており、日記『吉記』が残されています。また、文治2年（1186年）と建久6年（1195年）には大規模な歌合を催しており、その記録は『新古今和歌集』への過渡期を示すものとして貴重な資料となっています。これらの歌合には、藤原経家や藤原定家、源長俊など、当時の有力歌人が多数参加しました。

吉田家の成立

経房は、最初は邸宅のあった通りから「勘解由小路」と名乗っていましたが、後に京の東郊・吉田に別邸を建てたため、家名を「吉田」と改めたとされています。その後、家名を甘露寺に改め、多くの子孫が堂上家として後世に名を残しました。

官歴

久安6年（1150年）:
6月9日：蔵人
7月8日：従五位下
仁平元年（1151年）7月24日：伊豆守
保元2年（1157年）
8月21日：勘解由次官を兼任
10月21日：従五位上
保元3年（1158年）
2月3日：皇后宮権大進を兼任
11月26日：安房守
保元4年（1159年）2月13日：皇后宮権大進を辞任、上西門院判官代
永暦2年（1161年）4月1日：正五位下
長寛2年（1164年）2月28日：安房守を辞任
永万2年（1166年）
3月9日：昇殿
仁安元年（1166年）8月27日：蔵人
仁安2年（1167年）
正月30日：右衛門権佐
8月1日：左衛門権佐
仁安3年（1168年）
2月19日：新帝（高倉天皇）蔵人
3月20日：皇太后宮大進
嘉応元年（1169年）4月12日：皇太后宮大進を辞任、建春門院判官代
嘉応2年（1170年）
正月18日：左少弁を兼任
7月26日：蔵人・左衛門権佐を辞任
承安2年（1172年）2月23日：従四位下、権右中弁
承安3年（1173年）11月21日：従四位上
承安5年（1175年）4月16日：正四位下
安元元年（1175年）12月8日：右中弁
治承元年（1177年）12月5日：内蔵頭を兼任
治承2年（1178年）12月15日：春宮（言仁親王）昇殿
治承3年（1179年）
10月9日：左中弁
10月10日：蔵人頭
10月21日：修理左宮城使を兼任
12月7日：後院（高倉上皇）別当
12月10日：内蔵頭を辞任、正蔵率分所勾当、装束使
治承4年（1180年）2月21日：新帝（安徳天皇）蔵人頭、新院（高倉上皇）別当
治承5年（1181年）9月23日：右大弁
養和元年（1181年）12月4日：左大弁、参議
養和2年（1182年）3月8日：近江権守を兼任
寿永2年（1183年）正月5日：従三位
元暦元年（1184年）
9月18日：権中納言
9月28日：大嘗会御禊装束司庁長官
11月17日：正三位
文治元年（1185年）10月11日：大宰権帥を兼任
文治4年（1188年）正月6日：従二位
文治6年（1190年）
正月14日：大宰権帥を辞任
建久元年（1190年）8月13日：民部卿を兼任
建久2年（1191年）正月7日：正二位
建久6年（1195年）
11月10日：中納言
11月12日：民部卿如元
建久9年（1198年）
11月14日：権大納言、民部卿如元
11月15日：大嘗会検校
12月29日：帯剣を許される
正治2年（1200年）
2月30日：出家
閏2月11日：薨去

系譜

父：藤原光房
母：藤原俊忠の娘
妻：平範家の娘
男子：吉田定経
妻：官女（藤原顕憲の娘）
男子：吉田良経
妻：新大納言局（藤原成親の娘、平維盛前妻）
生母不明の子女
女子：滋野井公時室
女子：平時実室
養子
男子：吉田資経

関連作品

テレビドラマ
『新・平家物語』（1972年、NHK大河ドラマ、演：宮崎和命）
『草燃える』（1979年、NHK大河ドラマ、演：戸沢佑介、川部修詩）

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