皇侃

皇侃 - 南朝梁の儒学者

皇侃(おうがん、488年～545年)は、南朝梁を代表する儒学者の一人です。現在の江蘇省蘇州市付近にあたる呉郡呉県に生まれ、名門の出身でした。皇侃の祖先は、青州刺史を務めた皇象という人物にまで遡ります。

幼少期より学問に秀でた皇侃は、賀瑒(がよう)という著名な学者に師事しました。賀瑒の教えを深く理解し、特に『三礼』、『孝経』、『論語』といった儒教の古典に精通しました。その高い学識は広く知られ、国子助教に任命されると、数百人の生徒が彼の講義を聴講しに集まりました。

皇侃は『礼記』に関する深い造詣を有しており、自ら50巻にも及ぶ注釈書『礼記講疏』を著しました。この書は朝廷に献上され、秘蔵の書物として大切に保管されました。その優れた学問は梁武帝の耳にも届き、寿光殿に招かれ、『礼記』の講義を行う機会を得ます。武帝はその解釈に感銘を受け、皇侃は員外散騎侍郎という高官の地位を与えられました。

皇侃の学問への情熱は並々ならぬものでした。毎日『孝経』を20回も暗唱し、その勤勉さはまるで仏教の経典である『観世音経』を唱える修行僧のようだったと伝えられています。

しかし、母を亡くした際には、官職を辞して郷里に帰り、喪に服しました。その深い孝心もまた、皇侃の人となりを示すエピソードと言えるでしょう。

その後、邵陵王蕭綸(しょうりん)が皇侃の学問を高く評価し、厚遇をもって彼を迎えました。ところが、蕭綸のもとに到着した皇侃は、心臓の病に悩まされるようになります。

大同11年(545年)の夏、皇侃は58歳でこの世を去りました。

彼の残した最大の業績は、[何晏]の『論語集解』をさらに詳細に解説した『論語義疏』10巻です。これは当時、高く評価され、広く読まれました。『礼記講疏』とともに、皇侃の学問的遺産として後世に伝えられています。

『隋書経籍志』には、『喪服文句義疏』、『喪服問答目』、『孝経義疏』といった著作も記されていますが、これらは残念ながら現存していません。

皇侃の生涯は、儒教の古典研究に生涯を捧げた学者の生き様を示す、貴重な記録として『梁書』巻48と『南史』巻71に伝えられています。彼の注釈書は、後世の儒学者たちに多大な影響を与え、中国の古典学の発展に大きく貢献しました。皇侃の業績は、今もなお、人々の記憶の中に生き続けているのです。

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