義疏

義疏：経典を解き明かす注釈書

中国の伝統において、経典の深い理解を助ける重要な役割を担ったのが「義疏（ぎそ）」です。経典の本文や既存の注釈をさらに詳細に解説した書物で、「義」は意義、「疏」は解説や説明を意味し、経典の意義を詳しく解き明かすことを目的としています。そのため、単に「疏」と呼ばれることもあります。儒教、道教、仏教など、様々な宗教や思想の経典に義疏が存在し、特に南北朝時代（420年～589年）にその隆盛を極めました。

義疏の誕生と背景

漢代から魏晋時代にかけて、経書を中心とした重要な古典には、学者が解釈を付した「注」が作成され、学問の基礎として広く用いられていました。しかし、魏晋時代以降、仏教の伝来や玄学の流行などにより、学問の風潮に変化が生じます。こうした時代の変化の中で、より詳細で体系的な経典解釈の必要性が高まり、義疏という形式が発展していったと考えられます。義疏を中心とした学問は「義疏学」と呼ばれ、当時の学問の発展に大きく貢献しました。

義疏の特徴

古勝隆一氏は、牟潤孫氏の整理に基づき、義疏を以下のように定義しています。

1. 形式: 既存の注釈書とは独立した、単独の注釈書であること。
2. 起源: 口頭での講義と何らかの関連性を持つ。講義の記録、講義の原稿など、様々な形態が考えられます。
3. 名称: 書名に「義疏」、または「講疏」「義」「疏」といった類似の言葉が含まれること。
4. 内容: 解釈対象となる書物の大義（全体像や重要な意味）に関する記述を含むこと。
5. 時代: 南北朝時代から唐代の終わり頃までに成立したもの。

これらの特徴から、義疏は単なる注釈書ではなく、当時の学問状況や思想を反映した、高度な解釈書であったことが分かります。

義疏の具体例

『隋書』経籍志、『旧唐書』経籍志、『新唐書』芸文志などの蔵書目録には、多くの義疏が記載されています。以下に、その一部をご紹介します。

儒教経典に対する義疏

著者不明『講周易疏論家義記』（一部現存）：易経に関する注釈書。
皇侃・鄭灼『礼記子本疏義』（一部現存）：礼記に関する注釈書。皇侃と鄭灼という二人の学者の共同作業によるものと推測されます。
熊安生『礼記義疏』（亡佚）：礼記に関する注釈書で、現在は失われています。
皇侃『論語義疏』（現存）：論語に関する注釈書。
劉炫『孝経述議』（一部現存）、『尚書述議』『毛詩述議』『春秋述議』（亡佚）：それぞれ孝経、尚書、毛詩、春秋に関する注釈書。一部は現存せず、失われています。

仏教経典に対する義疏

竺道生『法華義疏』（現存）：法華経に関する注釈書。

道教経典に対する義疏

賈大隠『老子述議』（亡佚）：老子に関する注釈書。
成玄英『南華真経疏』（現存）：荘子の注釈書。

これらの例からも分かるように、義疏は様々な経典に対して作成され、当時の学問や思想を理解する上で貴重な資料となっています。多くの義疏は現存していませんが、残された資料から、当時の学問の盛況と深さを垣間見ることができます。義疏の研究は、中国思想史、宗教史、そして学問史を理解する上で欠かせないものと言えるでしょう。

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