相沢三郎

相沢三郎中佐：生涯と相沢事件

相沢三郎は1889年、福島県に旧仙台藩士の子として生まれました。仙台陸軍地方幼年学校、陸軍中央幼年学校を経て、1910年に陸軍士官学校を卒業。卒業同期には、後に高位となる軍人多数が含まれていました。少尉に任官後、歩兵として41連隊などに所属し、台湾勤務や戸山学校教官などを経験しました。剣道四段の腕前で知られ、陸軍戸山学校の剣術教官を務めた経歴も持っていました。

相沢は、皇道派に属する熱烈な尊皇主義者でした。1935年7月、真崎甚三郎教育総監の更迭を巡る騒動が勃発します。真崎更迭の陰謀を永田鉄山軍務局長が主導したと考えた相沢は、激昂。永田に辞任を迫りますが拒絶され、同年8月、台湾への異動を命じられます。

しかし、相沢は台湾へ赴任せず、上京。1935年8月12日、陸軍省で永田鉄山軍務局長を襲撃、殺害しました。この事件は「相沢事件」と呼ばれ、日本の近代史における重要な出来事の一つとなりました。

相沢事件の発端と経緯

相沢事件の直接的な引き金となったのは、真崎甚三郎教育総監の更迭です。真崎は、更迭の経緯を記した文書を皇道派青年将校に配布しました。相沢はこの文書を読み、永田鉄山が更迭の黒幕であると確信。永田に面会し辞任を要求しますが失敗し、その後、台湾への異動を命じられます。しかし、相沢は台湾へ赴任せず、永田を殺害する行動に出ました。

事件当日、相沢は陸軍省で永田に襲いかかり、軍刀で斬りつけ、さらに銃剣で刺しました。永田は即死しました。相沢は犯行後、現場から逃走を試みますが、憲兵に逮捕されます。

事件後の裁判と処刑

逮捕後、相沢は殺人罪で起訴され、軍事裁判にかけられます。裁判では、相沢の精神状態が問題となりました。精神異常を主張する意見もありましたが、最終的に死刑判決が下されました。

1936年7月3日、相沢は東京の代々木衛戍刑務所で銃殺されました。享年46歳。処刑に際しては、家族との面会が許されました。相沢は妻に「まごころに　よりそう　助けかひありて　仕へはたして　今帰へるわれ」という辞世の句を残しました。

相沢三郎の人物像

相沢は、剣道、銃剣道の達人として知られており、質素で古風な人物像が描かれています。上官には敬意を払い、部下には慈愛をもって接したとされています。尊皇的な思想を持ち、その信念を貫き通した人物でした。一方で、事件前後の言動から、精神的に不安定だったという指摘もあります。

菅原裕の著書では、相沢の父が明治維新の際、東北諸藩が朝敵の汚名を受けたことを深く悔やみ、三郎に「一死以って君国に報じる覚悟がなければならない」と諭したことが語られています。これは相沢の行動原理を理解する上で重要な要素です。

相沢事件の評価

相沢事件は、昭和時代の軍部内紛の激しさを象徴する出来事として歴史に刻まれています。相沢の行動は、当時の政治状況と、個人の強い信念、そして精神状態が複雑に絡み合った結果であったと考えられます。歴史家の間でも、相沢の動機や責任の所在については様々な解釈が存在します。東京大学教授の竹山道雄は、相沢の精神疾患を指摘する発言をしたものの、後に撤回しています。

相沢事件と関連作品

相沢事件は、多くの映画やドラマの題材となっており、様々な角度から描かれています。これらの作品を通じて、相沢三郎という人物像や、事件の背景、そして当時の社会状況を理解することができます。

まとめ

相沢三郎は、皇道派青年将校として永田鉄山軍務局長を殺害した陸軍軍人です。彼の生涯と相沢事件は、昭和時代の軍部内紛、政治状況、そして個人の信念が複雑に絡み合った歴史的事件として、現在もなお研究され、様々な解釈がなされています。尊皇的な信念、剣道の実力、そして精神的な側面を含む多角的な視点から、相沢三郎という人物像を理解することが重要です。

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