相良城

相良城（さがらじょう）

現在の静岡県牧之原市、かつての遠江国榛原郡に位置した相良城は、日本の歴史においていくつかの重要な役割を果たした城郭です。江戸時代には相良藩の藩庁が置かれ、特に江戸時代中期に老中・田沼意次によって築かれた近世城郭としてその名を知られています。

歴史的変遷

相良の地には、古くから人の営みがありました。平安時代末期から鎌倉時代初期にかけては、この地を治めた相良氏の館、「相良館」が構えられていたと伝えられています。相良氏は、後に肥後人吉城主となる一族の祖とされています。

戦国時代に入ると、遠江国の支配権を巡る争いが激化します。武田勝頼は、徳川家康の重要拠点であった高天神城の攻略を目指す過程で、相良の地に城を築きました。これは「相良古城」と呼ばれ、武田氏の遠江侵攻における戦略拠点の一つであったと考えられます。

その後、遠江国は徳川家康の支配下に入ります。天正14年（1586年）、相良城は城としての機能よりも「相良御殿」として位置づけられ、家康が鷹狩りなどでこの地を訪れる際の休憩・宿泊施設として利用されました。江戸時代が始まると、相良陣屋が置かれ、相良藩の藩庁として機能しました。陣屋は本多氏、板倉氏、再び本多氏と藩主が交代する中で維持されました。

田沼意次による近世城郭の築城

現在、「相良城」として一般的に認識されている大規模な城郭は、江戸時代中期に幕府の要職にあった田沼意次によって築かれたものです。意次は宝暦8年（1758年）に相良1万石の領主となりましたが、当時の相良には陣屋があるのみでした。その後、第10代将軍徳川家治の信任を得て老中に昇進し、所領も大きく加増されていきます。明和4年（1767年）には、家治の許可を得て城主格となり、相良への築城が許されました。

意次は翌年から築城工事に着手し、実に11年もの歳月をかけて城を完成させました。普請の指揮は家老の井上伊織に全面的に委ねられ、安永9年（1780年）の完成に合わせて、意次は62歳にして初めて領地である相良に赴き、築城の様子を検分したと伝えられています。特に注目されるのは、当時あまり例を見なかった天守の築造が許されたことです。縄張りは北条流軍学に通じた須藤治郎兵衛が担当し、三重櫓の天守が建てられました。

相良城は、萩間川と天の川を天然の要害である外堀として取り込み、本丸、二の丸、三の丸の主要な曲輪から構成されていました。その規模は東西約500メートル、南北約450メートルにも及び、総面積は約7万坪という広大なものでした。三重櫓の天守を中心に6基の櫓が配置され、城の周囲には三重の堀が巡らされていました。築城には総石垣が用いられ、12年の歳月をかけた堅固な城郭として完成しました。意次の所領はさらに加増され、最盛期には5万7千石を領する大名となります。

田沼氏の失脚と城の破壊

しかし、田沼意次の栄華は長くは続きませんでした。天明6年（1786年）、将軍徳川家治が死去し、松平定信が老中に就任すると、意次は失脚し、蟄居・減封の処分を受けます。翌天明7年（1787年）、意次は隠居し、家督は嫡孫の田沼意明が継ぎましたが、意明は陸奥下村藩1万石への移封を命じられました。これにより相良城は廃城とされ、徹底的な破壊が命じられ、天明8年（1788年）には城の建物や石垣は容赦なく壊されました。

田沼氏の復帰と陣屋の再建

田沼意明の移封後、相良は一時的に幕府の直轄領、いわゆる天領となりました。しかし、文政6年（1823年）になって、意次の四男である田沼意正が、陸奥下村藩主から相良へ1万石の領主として再び入封しました。意正は破壊し尽くされた相良城跡に、かつての陣屋を再建し、これが再び相良藩の藩庁となりました。この相良陣屋は、明治元年（1868年）に意正の孫である田沼意尊が上総小久保藩へ移封されるまで、相良藩の政務の中心として機能しました。

現在の城跡

近世相良城は徹底的に破壊されたため、往時の姿を伝える遺構は少ないですが、城跡は現在も地域に利用されています。本丸跡には牧之原市役所相良支所と牧之原市史料館が建てられており、二の丸跡は牧之原市立相良小学校の敷地に、三の丸跡は静岡県立相良高等学校の敷地となっています。城郭の一部であった御殿と書院は、安永元年（1782年）に藤枝宿の中心部に位置する円妙山大慶寺の庫裏として移築され、現在も藤枝市内にその姿を残しています。

相良城は、相良氏の館に始まり、武田氏の城、徳川氏の御殿・陣屋を経て、田沼意次によって大規模な近世城郭へと発展し、そして破壊されるという、激動の歴史を歩んだ城跡です。現在は地中に眠る石垣の一部や、移築された建物などが、かつての姿を偲ばせる数少ない手がかりとなっています。

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