矢代操

矢代 操

矢代 操（やしろ みさお、嘉永5年6月20日（1852年8月5日） - 明治24年（1891年）4月2日）は、日本の近代民法学者であり、現在の明治大学の前身である明治法律学校の創立者の一人です。フランス法学者ギュスターヴ・エミール・ボアソナードの門下生であり、日本の法学教育の黎明期を支えました。

生い立ちと勉学

矢代操は、幕末の嘉永5年（1852年）、越前国（現在の福井県）鯖江藩士である松本伝吾の三男として生まれました。幼名は美太（よしふと）です。9歳からは藩校である進徳館で学び、漢学などを修めました。明治2年（1869年）には、同じ鯖江藩士の矢代潤蔵の養子となり、姓を矢代と改めました。

明治3年（1870年）、矢代は貢進生に選ばれ、上京を果たします。大学南校で学んだ後、司法省が設立した司法省法学校に進みました。この学校では、フランス近代法の移植のために政府によって招かれたお雇い外国人教師であるボアソナードから直接、フランス法を学びました。しかし、学業成績は必ずしも優秀とは言えず、「新入諸生徒ニモ及ハサル（新入生にも及ばない）」と評価されたため、卒業後のフランスへの官費留学や、司法省の官吏として任官することは叶いませんでした。

教育者、そして明治法律学校の創立へ

司法省への道が閉ざされた後、矢代は法律に関する活動を続けます。法律専門の出版社である時習社の設立に参加し、また法律を教授する私塾、講法学舎の幹事を務めることになります。ここで彼は、フランス留学を終えて帰国したボアソナードの優秀な門下生であった岸本辰雄、宮城浩蔵の両名を講師として招き入れました。

しかし、講法学舎の運営を巡る内紛が発生し、多数の学生が集団で退学するという事態に発展します。この混乱を収拾するため、あるいはこれを機として、矢代は岸本、宮城とともに、新しい法律学校の設立を決断しました。明治14年（1881年）1月、神田駿河台の地に「明治法律学校」が開設されます。これが現在の明治大学の起源であり、矢代はその創立者の一人として、学校の運営に尽力するとともに、教鞭を執ってフランス民法などの講義を行いました。

公職でのキャリアと早逝

明治法律学校の経営に携わる傍ら、矢代は政府の機関でも職務を務めました。明治12年（1879年）10月には元老院に出仕し、刑法草案審査局の雇員となります。同時に治罪法草案審査局も兼務し、翌年には陸軍刑法草案審査局、海軍刑法審査局も兼務するなど、日本の近代刑法整備にも関与しました。

明治23年（1890年）には貴族院に転じ、7月には書記官に、9月には議事課長に就任するなど、順調にキャリアを重ねていました。しかし、翌明治24年（1891年）4月2日、矢代は腸チフスに罹患し、わずか39歳でその短い生涯を閉じました。彼の墓所は東京都港区の青山霊園にあります。

遺産

矢代操の生涯は短かったものの、日本の近代法学、特に民法学の発展と普及に大きな足跡を残しました。明治法律学校の創立者として、彼は多くの法律家を育成する基盤を築きました。彼の著作としては、主に明治法律学校講法会から出版されたフランス民法に関する講義録が多数あります。これらは当時の学生にとって重要な教科書であり、近代法学の理解を助ける資料となりました。

故郷である福井県鯖江市にあるまなべの館（旧鯖江資料館）には、彼の功績を称える胸像が建立されています。矢代操は、岸本辰雄、宮城浩蔵と共に、「明治の三傑」として、日本の法学教育史において重要な人物として記憶されています。

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