矢賀村

矢賀村（やがむら）

矢賀村は、かつて広島県安芸郡に存在した村で、1889年の町村制施行により誕生しましたが、1929年に広島市へ編入され消滅しました。現在の広島市東区矢賀地区および東山町に相当する地域です。

地理

矢賀村は、府中大川に流れ込む温品川の下流西岸に位置していました。村の西部は百足山などの丘陵地帯、東部は川沿いの低地が広がっており、南端には古くから景勝地として知られた「岩鼻（巖鼻）」がありました。村域は狭く、北は中山村、東は府中村、西と南は尾長村および大洲町に隣接していました。

歴史

地名の由来

「矢賀」という地名は、「矢加」や「屋賀」とも表記され、鎌倉時代から存在する古い地名です。『和名抄』に見られる「駅家」（やが）が地名の由来であるという説もあります。

中世

室町時代には、安芸国の守護であった武田氏の支配下にありました。1541年、大内氏が銀山城を攻撃し武田氏を滅ぼした際、大内軍が武田氏方の白井氏を攻略するために矢賀・中山・尾長の境界にある峠を通過し、これが「大内越峠」と呼ばれるようになったと言われています。その後、矢賀は太田川河口の戸坂・牛田と共に毛利元就に委ねられ、水軍の拠点として毛利氏の重臣である児玉氏や乃美氏が配置されました。

近世

近世初期、矢賀村の南端に位置する岩鼻の先には広島湾が広がっていましたが、干拓が進み新開地が造成され耕地が拡大しました。この新開地は矢賀新開、蟹屋新開と呼ばれ、後に広島城下に属し「矢賀村」と呼ばれるようになりました。元禄年間には、矢賀新開の東に大須新開が造成され、西国街道のルートが岩鼻の南側を通るように変更され、岩鼻には城下町の東端を示す大門が設置され、矢賀村は交通の要衝となりました。広島城下の「矢賀村」は1882年に広島区に属し、市制施行により広島市に編入されました。現在の南区荒神町地区・蟹屋地区・東駅町などに相当します。

近代

1889年の町村制施行により安芸郡矢賀村が設置され、1915年には芸備鉄道（現在のJR芸備線）が開通、1929年には矢賀駅が開業しました。国道2号（現在の広島県道164号広島海田線）沿いには人家が密集し、村民の約半数は養鶏や蔬菜栽培などの近郊農業に従事し、残りは商工業や広島市内に通勤する給料生活者でした。1929年、矢賀村は広島市に編入されました。

沿革

1889年4月1日：町村制施行により安芸郡矢賀村が設置。
1929年4月1日：広島市に編入され消滅。旧村域は広島市矢賀町となる。

大字

近世以来の「矢賀村」がそのまま町村制による矢賀村へと移行したため、大字は編成されませんでした。しかし、「上組」「市浜」「中組」「下組」といった集落名が存在しました。

各種施設・企業（1929年4月時点）

矢賀村役場
矢賀村立矢賀尋常小学校（現在の広島市立矢賀小学校）
芸備鉄道（現在のJR芸備線）矢賀駅

出身者

豊島陽蔵（陸軍軍人、政治家、広島市長）
増本量（金属物理学者、東北帝国大学・東北大学教授、文化勲章受章）

合併後の状況

広島市への編入後、旧矢賀村域は広島市矢賀町となりました。1940年には国鉄広島車輛工場（現在のJR貨物広島車両所）が起工、1942年には府中川西岸の低地が矢賀新町として分離しました。1972年の町名変更により、矢賀町は矢賀、東山町などに分割され、現在は高天原火葬場を中心とする区域のみが住所表示「矢賀町」として残っています。

参考文献

『広島県の地名』（日本歴史地名大系 第35巻） 平凡社、1982年
『角川日本地名大辞典 第34巻 ： 広島県』 角川書店、1987年

関連項目

広島県の廃止市町村一覧
矢賀地区

外部リンク

広島市立矢賀小学校HP'>広島市立矢賀小学校HP

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