石原保徳

歴史学者石原保徳：大航海時代研究への貢献

石原保徳（1935年-2011年）氏は、日本の歴史学者として、特にコンキスタドールによるアメリカ大陸征服に関する研究で知られています。岡山県岡山市に生まれた石原氏は、1961年に一橋大学大学院社会学研究科修士課程を修了。高島善哉氏に師事し、歴史研究の礎を築きました。

大学院修了後は、日本の代表的な出版社である岩波書店に入社。編集者として長年勤務し、数々の書籍の企画・編集に携わりました。その編集者としての経験は、後の彼の研究活動にも大きな影響を与えています。特に1979年から1992年にかけて刊行された『大航海時代叢書』第2期の企画・編集において、中心的な役割を果たしました。この叢書は、大航海時代に関する貴重な資料を網羅しており、日本の歴史研究に多大な貢献をしました。

編集者としてのキャリアの集大成として、石原氏は『アンソロジー新世界の挑戦』（1992年-1995年）という新たな企画に着手しました。このアンソロジーは、大航海時代とその後の世界に焦点を当て、多様な視点から歴史を捉え直すことを目指した意欲的なものでした。

編集者としての仕事に加え、石原氏は自らも多くの著作を発表しました。代表的な著書には、『インディアスの発見 ラス・カサスを読む』（1980年）、『世界史への道 ヨーロッパ的世界史像再考』（1999年）、『大航海者たちの世紀』（2005年）などがあります。これらの著作は、彼の深い歴史的洞察と、明晰な文章表現によって高く評価されています。特に、バルトロメ・デ・ラス・カサスという、スペインによるインディオ虐殺を批判した歴史家の研究を通して、ヨーロッパ中心主義の歴史観に対する批判的な視点を提示しています。

また、ラス・カサスの著作の翻訳にも携わっています。『インディアス破壊を弾劾する簡略なる陳述』の翻訳は、彼のラテンアメリカ史研究における重要な貢献の一つです。さらに、長南実氏訳の『インディアス史』（岩波文庫、全7巻）の編集も担当し、大航海時代叢書版を改訂することで、この重要な史料をより多くの人に届けました。

晩年は、前立腺がんと闘いながら研究を続け、『世界史再考　歴史家ラス・カサスとの対話』（2011年）を私家版として出版しました。この著作は、生涯にわたる研究の集大成ともいうべきものであり、彼の歴史観の深遠さと、歴史研究への情熱を改めて示すものです。

1992年の前立腺がんの手術後も、石原氏は病気と闘いながら精力的に研究活動を行いましたが、2011年に逝去されました。短い生涯でしたが、編集者、そして歴史学者として、日本の歴史研究に多大な貢献を残しました。彼の著作は、今もなお多くの読者から高い評価を受け、大航海時代やラテンアメリカ史を研究する者にとって、欠かせないものとなっています。石原保徳氏の功績は、これからも長く記憶されるでしょう。

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