石城日記

尾崎石城『石城日記』：幕末を生きた武士の日常

『石城日記』は、文久元年（1861年）から翌年にかけて、忍藩（現在の埼玉県行田市）の下級武士であった尾崎石城（おざき せきじょう）が記した絵日記です。全7巻にわたり、178日間の石城の生活が詳細に記録されています。

『石城日記』の特色

江戸時代の武士の生活を記録した日記は他にも存在しますが、絵日記形式で日々の暮らしぶりを具体的に描き出している点が『石城日記』の大きな特徴です。自宅での様子、友人宅や寺社、料理店など、様々な場所での出来事が生き生きと描かれており、当時の生活文化を知る上で貴重な資料となっています。

尾崎石城とは

尾崎石城は、通称を隼之助といい、石城は字（あざな）です。㐮山（じょうざん）、貞幹（ていかん）などの雅号も持っていました。石城は元々、庄内藩士の次男でしたが、尾崎家の養子となりました。忍藩では御馬廻役（おんまわりのやく）という役職に就き、百石の中級武士でしたが、藩政を批判する上書を提出したことが原因で蟄居となり、十人扶持（じゅうにんぶち）の下級武士に降格されました。上書の内容は明らかではありませんが、日記の中に水戸浪士の行動に共感する記述があることから、尊王攘夷思想に近かったと考えられています。当時の忍藩は、水戸藩とは対立関係にあったため、石城のような思想を持つ家臣は抑圧されたようです。

石城は文才と画才に恵まれ、多くの随筆や詩を残しました。また、軸物絵や屏風絵、襖絵なども制作しており、友人や知人から依頼を受けて行灯絵（あんどんえ）を描くこともありました。禄を下げられた後も、これらの仕事や読み書きの手習いによって生計を立てていました。

日記が書かれた当時、石城は妹夫婦の家に同居しており、独身でした。尾崎家を事実上追い出された状態だったとも考えられています。33歳の時にこの絵日記を書き始めました。

絵日記から見える幕末の世相

『石城日記』には、当時の社会情勢や人々の暮らしぶりが詳細に描かれています。

石城は茶漬けを好んで食べており、1日に三食とも茶漬けだった日もあったようです。
武家の家では、鎧櫃（よろいびつ）を玄関近くに置くのが習慣でしたが、太平の世が長く続いたため、床の間に飾られる様子が描かれています。
当時の炬燵（こたつ）の様子を知ることができます。
皇女和宮（こうじょかずのみや）が中山道を通る際の警護の準備に追われる武士たちが、手製の武装をしていた様子が描かれています。石城自身も鎖を鉢巻に縫い付ける様子が描かれており、当時の武士の軽装化を物語っています。
長徳寺の篤雲和尚（とくうんおしょう）から居合術（いあいじゅつ）を学んでおり、稽古の様子が描かれています。
石城は占筮（せんぜい）も行っており、筮竹（ぜいちく）を使って僧侶の使いを占う様子が描かれています。
酔って鞘から小柄（こづか）が落ち、小指に刺さるという武士らしからぬ失敗や、酔って転んでしまい、人目を気にして顔を隠して井戸へ行く様子など、酒にまつわる失敗談も多く描かれています。

『石城日記』に記された情報

文久元年6月15日の記述には、江戸を「江都」と表記しています。
同17日の記述には、鰹節を「松魚ふし」と記述しています。
3月26日の記述には、前年から売却した書物が408冊にも及ぶことが記されており、石城が膨大な資料を所有していたことがわかります。書物の内容は、中国古典や和歌集、『足軽十ヶ条私解 一巻』『武門故実 一巻』、切腹に関する書物など、軍事関係のものが多く含まれています。

『石城日記』の現在

『石城日記』は、慶應義塾大学文学部古文書室に所蔵されており、同所のホームページで閲覧することができます。また、2014年には国立公文書館で開催された特別展「『江戸のレシピ』-美食から救荒食まで-」で、絵日記の画像パネルが展示されました。

『石城日記』は、幕末の武士の生活を知る上で貴重な資料であり、尾崎石城という人物の個性的な魅力を伝えてくれる作品です。

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