石川大浪

石川大浪（いしかわ たいろう）

石川大浪は、宝暦12年（1762年）に生まれ、文化14年12月23日（1818年1月29日）に没した江戸時代後期の洋風画家です。本名を乗加（のりまさ）といい、通称は甲吉、後に七左衛門と称しました。字は啓行、号は大浪の他に董松軒、董窓軒などがありました。大浪という号は、喜望峰のテーブルマウンテンの中国名である「大浪山」に由来し、作品にはオランダ名の「Tafel berg」とサインを入れることがありました。

生涯

400俵取りの旗本の家に生まれ、9歳で父の跡を継ぎました。その後、将軍徳川家治に御目見えし、大番という役職に就き、生涯その職務を全うしました。絵は狩野派から学び始めましたが、山村才助との交流を通じて西洋の情報を積極的に取り入れるようになりました。西洋の銅版画を模写することで技術を習熟させ、蘭書の挿絵だけでなく、海外情報や図像の意味を理解し、自身の作品に反映させました。大浪は、『大画法書』のような当時希少な蘭書も多く所持しており、大槻玄沢や木村蒹葭堂といった知識人たちと親交がありました。

晩年は、古物や古書画の鑑賞・鑑定に傾倒し、松平定信や大田南畝らと交流を深めました。また、杉田玄白とも親密な関係にあり、その肖像画を描きました。この肖像画は、大浪の晩年の代表作と言われています。油絵の遺作はありませんが、水墨画や淡彩画による洋風画、龍虎図や羅漢図など、幅広い画題を手がけました。また、大槻玄沢著『蘭畹摘要』や杉田立卿著『眼科新書』などの書籍の挿絵も担当しています。

大浪は、司馬江漢のように油彩画や銅版画を残していませんが、谷文晁は大浪を「泰西画法」の師と仰いでいました。これは、当時活躍したどの絵師よりも大浪が西洋の画法を正しく実践できる技術を持っていると文晁が認めていたためでしょう。

大浪の蔵書である、ニューホフ著『東西海陸紀行』やフランス語版『イソップ物語』は、後に歌川国芳の手に渡り、国芳は自身の作品にその洋風表現を取り入れています。

作風と影響

石川大浪の作品は、狩野派の伝統的な技法に加えて、西洋画の写実的な表現を取り入れているのが特徴です。彼は、蘭書や銅版画を参考に、西洋の風景や人物を正確に描写しました。また、東洋的な画題においても、西洋画の技法を応用することで、新しい表現を生み出しました。大浪の画風は、弟の石川孟高や弟子の谷文晁など、後世の画家たちに大きな影響を与えました。

代表作

杉田玄白像
書籍の挿絵（『蘭畹摘要』、『眼科新書』など）

脚注

勝盛典子 『近世異国趣味美術の史的研究』 臨川書店、2011年、ISBN 978-4-653-04039-2
神戸市立博物館編集・発行 『開館30年プレ企画 特別展 日本絵画のひみつ』 2011年12月10日

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