碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件

1998年 6月28日夜から29日未明にかけて、愛知県碧南市で発生した強盗殺人事件。パチンコ店店長である男性X（当時45歳）とその妻Y（当時36歳）が、自宅で3人組の男に殺害され、現金などが奪われた。この事件は、犯人グループの主犯格である堀慶末が、後に複数の凶悪事件に関与したことで、その異常性が明らかになった。

事件の概要

事件は、堀慶末（当時23歳）を含む3人組が、パチンコ店経営者のX宅に強盗目的で侵入したことから始まる。彼らは、Xの妻Yを脅して家の中に上がり込み、帰宅したXを襲撃して殺害。現金や金庫を奪った。この事件の特異性は、主犯格の堀が、その後に発生した守山事件（強盗殺人未遂）や闇サイト殺人事件といった、より凶悪な事件にも関与していたことである。これらの事件を通じて、堀の冷酷で計画的な犯行手口が明らかになった。

事件の詳細な経緯

事件前

事件当時、堀を含む3人は名古屋市内に住み、同じ外装関係の職場で働いていた。堀は、兄の会社名義で購入した車のローンや借金返済に困り、パチンコ店からの現金強奪を計画。まず、同僚の男A（当時21-22歳）を誘い、Aの過去の犯罪歴と覚醒剤使用歴を理由に、協力を強要した。その後、旧知の男B（当時28-29歳）も仲間に引き入れ、3人で犯行計画を練り始めた。

彼らは、まず複数のパチンコ店を下見し、Xが店長を務める店をターゲットに選んだ。しかし、店の警備が厳重だったため、Xを尾行し、自宅を突き止める作戦に変更。堀は、Xの自宅を昼間に下見し、電話帳で電話番号を調べて、アンケートを装い家族構成を調査した。Xの家族は、妻Yと2人の息子（当時8歳と6歳）の4人家族であり、地域では裕福な家庭として知られていた。最終的に、「Yを騙して家に上がり込み、帰宅したXを襲う」という計画を立てた。

事件当日

1998年 6月28日、3人はBの車で碧南市へ向かい、X宅から少し離れた場所に車を停めた。犯行の準備として、包丁、粘着テープ、ビニール紐などを準備し、釣り人を装ってX宅へ向かった。堀がインターホンを鳴らしたが応答がなかったため、無施錠の玄関から侵入。当時、彼らは指紋を残さないために軍手をしていたが、顔を隠していなかった。

2階にいたYを発見した堀は、「Xの知り合いで、暴力団に追われている」と嘘をつき、匿ってもらうように頼み込んだ。その後、リビングにいた子供たちをBに見張らせ、Aと共にYを和室に連れて行った。Yは彼らに夕食や酒を提供したが、堀は常に軍手を着用していた。Yは、警察への相談を勧めたが、堀はそれを拒否し、交番の位置を確認するために一時的に家を出た。

堀が家を出ている間に、AがYの首を絞めて殺害。その後、堀はA、Bと共に家宅内を物色し、金品を漁った。そして、Xの帰宅を待ち伏せ、帰宅したXを襲撃して絞殺。鍵束やブレスレットなどを奪い、金庫を持ち去った。

夫婦殺害後

3人は、XとYの遺体をレクサスのトランクに押し込み、犯行時に使用した食器などをドラムバッグに詰めて持ち去った。その後、レクサスを路上に放置し、別の車でパチンコ店へ向かった。しかし、店の鍵を開けることができず、現金を奪うことはできなかった。持ち帰った金庫も、銀行の通帳しか入っていなかった。

その後の余罪

守山事件

堀は、碧南事件後、2006年に名古屋市守山区で発生した強盗殺人未遂事件（守山事件）にも関与していた。この事件では、高齢女性Z宅を襲撃し、金品を奪った。この事件で堀は、以前にZ宅の外壁工事に携わっていたことを利用して、Aと共に侵入。Zを脅迫し、首を絞めて殺害しようとしたが、Zは一命を取り留めた。堀は、この事件でも強盗と殺人を試みた。

闇サイト殺人事件

さらに2007年には、堀は闇サイトで知り合った男2人と共謀し、名古屋市内で帰宅途中の女性を拉致、殺害する闇サイト殺人事件を起こした。この事件では、女性を監禁した上で、顔面に粘着テープを巻き付け、金槌で殴打して殺害した。この事件で、堀は無期懲役となったが、後に碧南事件の容疑者として逮捕された。

捜査の進展

事件発生当初、警察は顔見知りによる犯行を疑っていたが、決定的な証拠が見つからず捜査は難航していた。しかし、事件現場に残されていた枝豆の皮の唾液からDNA型が検出され、それが堀のDNA型と酷似していることが判明。さらに、AのDNA型も検出され、2人の犯行が明らかになった。Bも、Aの供述などから関与が浮上し、逮捕に至った。

刑事裁判

堀、A、Bの裁判は、それぞれ別々に行われた。堀は一貫して殺意を否認したが、名古屋地裁は堀に死刑判決を下した。一方、Aは無期懲役、Bも無期懲役が確定した。堀は上告したが、最高裁はこれを棄却し、死刑が確定した。裁判では、堀が複数の事件に関与したこと、その残虐性、計画性などが重視された。

堀の裁判

堀の裁判では、Xの殺害方法について、堀が捜査段階での供述を翻し、「バスタオルで偶発的に首を絞めてしまった」と主張したが、裁判所はこれを退けた。また、Yの殺害についても、堀はAの単独犯行であると主張したが、Aは堀から殺害を依頼されたと証言した。

Aの裁判

Aの裁判では、守山事件について、当初は強盗致傷罪で起訴されたが、後に強盗殺人未遂罪に変更された。裁判所は、AがZを殺害しようとした堀を欺き、Zを救った可能性があると指摘し、強盗致傷罪を適用。Aには無期懲役が宣告された。

Bの裁判

Bの裁判では、BがYの殺害に関与したことが認められた。また、Xの殺害時にも、BがXの体を抑えつけるなどして関与したことが認定された。裁判所は、Bが軽度の知的障害を持つ可能性を指摘したが、責任能力は否定せず、無期懲役が宣告された。

闇サイト事件の扱い

闇サイト事件は、一事不再理の原則により、碧南事件の裁判では直接的には審理されなかったが、量刑を決定する際の情状として考慮された。検察は、闇サイト事件が同時に審理されていれば死刑判決となる可能性が高かったと主張した。

被害者遺児のその後

被害者夫婦の2人の息子は、事件後、母方のおばに引き取られた。しかし、そのおばが遺産を使い込み、息子たちは苦労した。次男は、事件のトラウマから一時的に荒れた生活を送ったが、後に結婚して子供をもうけた。兄弟は、事件の裁判に参加し、犯人たちの罪を償わせることを望んだ。

まとめ

碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件は、犯人の異常性と残虐性が際立った事件であった。DNA鑑定の技術がなければ、事件は未解決のまま終わっていた可能性もある。この事件は、犯人が犯した他の凶悪事件と共に、社会に大きな衝撃を与え、司法制度における様々な課題を提起した。また、被害者の遺族が抱える苦しみは計り知れず、この事件は、犯罪被害者の救済についても重要な示唆を与えている。

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