社会性昆虫

社会性昆虫とは

社会性昆虫とは、ハチ、アリ、シロアリのように、集団で生活し、内部に階層構造を持つ昆虫のことです。これらの昆虫は、まるで人間社会のような分業体制を持ち、高度な社会生活を営んでいます。しかし、その社会構造は人間社会とは異なる点も多く、それぞれの種で独自の進化を遂げてきました。

社会性昆虫の定義

かつては、群れの中に分業的な階層があるかどうかが社会性昆虫の判断基準でしたが、現在では不妊の階層があるかどうかが重視されています。不妊の階層を持つ社会性を「真社会性」と呼び、社会性昆虫とは真社会性を持つものとされています。ただし、真社会性を持つ昆虫の中にも、その生態が大きく異なるものが存在するため、別に扱う場合もあります。

社会性昆虫の多様な生態

社会性の特徴

多くの昆虫は親が子を世話することはありませんが、ハチやアリ、シロアリは親が子を育て、共に生活し、大きな集団を形成します。このような昆虫が社会性昆虫です。脊椎動物にも社会性を持つものがいますが、社会性昆虫はより複雑で高度な社会構造を持っています。

社会性昆虫の成功

社会性昆虫は生態系において非常に大きな成功を収めています。陸上生物群集において、動物の現存量の大部分を占めています。特にハチ目とシロアリは、昆虫の現存量の大部分を占め、熱帯雨林では脊椎動物の現存量を大きく上回る場合もあります。また、社会性昆虫は、種数こそ少ないものの、現存量では昆虫全体の半分を占めると推定されています。

社会性昆虫の役割

社会性昆虫は、生態系において重要な役割を果たしています。ハナバチ類は顕花植物の送粉者であり、カリバチ類は昆虫の捕食者です。シロアリは植物遺体の分解者として、アリは小動物の捕食、種子分散、他の生物との共生など、様々な役割を担っています。

社会性昆虫の驚くべき社会構造

超個体

社会性昆虫の群れは、個々の構成員が互いに依存し、単独では生存できないため、一つの個体とみなされることがあります。これを「超個体」と呼びます。群れ全体がまるで一つの生物のように機能し、個々の昆虫は細胞のように役割を分担していると考えられます。

様々な社会性昆虫

ハチの社会

ハチ目には、社会性のものから亜社会性のもの、単独生活のものまで様々な種類がいます。社会性のハチには、アリ類、アシナガバチ類、スズメバチ類、ミツバチ類などが含まれます。ハチの社会は、雌のみで運営され、女王バチが繁殖を、働きバチが巣の維持や幼虫の世話などを担います。

アリの社会

アリは原則的に全て社会性昆虫です。アリの中には、兵隊アリのような役割を持つものもいます。アリの社会は、女王アリが産卵し、働きアリが巣の維持や餌集めを行います。

シロアリの社会

シロアリは全て社会性昆虫です。シロアリの社会は、王と女王が繁殖を担当し、働きアリが巣作りや餌集めを行います。シロアリには兵隊アリもおり、巣の防御を担当します。

社会性昆虫の群れの運営

社会性昆虫の多くは、生殖虫（女王や王）が繁殖のみを行い、働き虫がそれ以外の全ての作業を行います。生殖虫は、巣の初期には巣作りから食料調達まで行いますが、働き虫が羽化すると繁殖に専念するようになります。働き虫は餌運び、巣の維持管理、幼虫の世話などを行います。また、生殖虫が死んだ場合には、幼虫の中から新たな生殖虫が出現することがあります。

社会性昆虫の進化

ダーウィンの難題

チャールズ・ダーウィンは、社会性昆虫の進化を説明することに苦労しました。働きバチは子を産まず、子を産まなければ形質が子孫に伝わらないからです。

血縁選択説

この難題を解決したのが、ハミルトンによる血縁選択説です。この説は、自然選択において選択されるのが個体ではなく、遺伝子であるという発想に基づきます。血縁度の高い集団では、自分は子を持たず親を助けて兄弟を増やす方が、遺伝子をより多く残せる可能性があります。この説によって、社会性昆虫における働きバチのような存在が説明できるようになりました。

真社会性

不妊の階層の存在が社会性昆虫の大きな特徴であることが示され、この社会性を「真社会性」と呼ぶようになりました。真社会性の定義は、不妊カーストがいること、複数の世代が同居していること、共同で幼い個体の保育を行うことです。

新たな真社会性昆虫

真社会性の基盤が明らかになったことで、アブラムシやテッポウエビ、デバネズミなど、新たな真社会性を持つ生物が発見されました。これらの生物は、血縁度の高い集団内で生活することで、社会性を発達させたと推測されています。

社会性昆虫の巣

アリ、ハチ、シロアリの巣は巨大なものもあり、新たな環境を提供し、そこに多くの生物が生息しています。巣の周辺には、特定の植物が見られることもあります。このような巣の周りに生息する生物を、好蟻性、好白蟻性と呼びます。

社会性の発達

ハチ類には、単独生活から真社会性まで、様々な段階の生活を持つものがいます。社会性のハチは、狩りバチや花バチから進化したと考えられており、親と子が共存する亜社会性の種から進化したとする説と、共同営巣から進化したとする説があります。

シロアリは全て社会性昆虫です。シロアリは幼虫が自力で餌を摂るため、ハチとは異なる進化を辿ったと考えられます。シロアリは腸内微生物の助けを借りて木材を消化するため、そのような過程で家族生活が発達したと考えられています。

まとめ

社会性昆虫は、その驚くべき社会構造と生態系における重要な役割から、非常に興味深い研究対象です。これらの昆虫の進化と生態を理解することは、生物多様性や生態系の仕組みを理解する上で非常に重要です。

参考資料

吉川公雄 (1973). 社会性昆虫 生態学講座12巻21. 共立出版.
日本生態学会編 (2004). 生態学入門. 東京化学同人.
伊藤嘉昭 (2006). 新版 動物の社会 社会生物学・行動生態学入門. 東海大学出版会.
北杜夫 (1966). どくとるマンボウ昆虫記. 新潮社.
* 杉浦直人・伊藤文紀・前田泰生編著 (2002). ハチとアリの自然史 本能の進化学. 北海道大学図書刊行会.

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