神々自身

アイザック・アシモフの『神々自身』

『神々自身』（かみがみじしん、The Gods Themselves）は、1972年に刊行されたアイザック・アシモフの注目すべきSF小説です。この作品は、アシモフが長編小説として発表したもので、彼の代表作であるファウンデーションシリーズやロボットシリーズとは全く異なる独立した物語です。

概要

本作は全3部から構成されており、異なる物理の法則が支配するパラレルワールドから持ち込まれた科学技術を中心に物語が展開されます。特に、科学の進歩とそのリスク、つまり新しい技術がもたらす可能性とその背後に隠された危険を主題としています。物語では、これらの未知の科学技術に対して警鐘を鳴らす若き物理学者や、利権や偏見のためにそれを排除しようとする勢力との対立が描かれています。

作品のテーマを強調するために、タイトルや各章はシラーの戯曲『オルレアンの乙女』からの引用句である「愚かしさという物は、神々自身ですら手に負えない」が使用されています。このメッセージは、技術の発展がもたらす倫理的な問題や人間の不合理さを暗示しています。

受賞と影響

『神々自身』は、アシモフが長らくノンフィクションの執筆に集中していた時期に発表された作品であり、特に第2部では異星人や性のテーマを取り入れることで、従来のアシモフ作品には見られなかった新しい側面を見せ話題を集めました。この独自の視点は、ヒューゴー賞とネビュラ賞の長編部門を受賞する要因ともなっています。

本作の中心にある「プルトニウム186」という架空の物質は、SF作家のロバート・シルヴァーバーグが語った偶然の命名に由来し、特異な科学的概念の一部としてストーリーに組み込まれています。この物質は、アシモフがもともと短編として書き始めたものの、その内容が拡張して長編として完成することになった経緯があります。また、アシモフが当時ニューヨークでの生活にトラブルを抱えていたため、物語の中のキャラクターやその関係性には彼自身の私生活が投影されているとも言われています。

あらすじ

物語は「エレクトロン・ポンプ」という無公害で無限のエネルギーを生み出す夢の装置を中心に展開します。この装置は、パラ宇宙との電子的な交換によってエネルギーを得る一種の永久機関として描かれています。

第1部

第1部では、ポンプの潜在的な危険性を警告する若き物理学者ラモントの挫折と彼の内面的な葛藤が描かれます。ラモントは自らの信念に基づきポンプの危険を訴え続けるものの、社会や周囲の圧力に苦しむ姿が印象的です。

第2部

続く第2部では、パラ宇宙で同様にポンプの危険性を訴えるデュアの運命が描かれます。彼女もまた、科学の進歩を追い求める一方で、異星人との関係や性にまつわる複雑な問題に直面します。

第3部

最後に、第3部では月に移住した物理学者デニソンがポンプの危険を示す証拠を見出し、その解決策を探る過程が描かれます。彼の成果は、物語全体における解決への道筋を示し、技術の進歩と倫理についての深い問いを投げかけます。

『神々自身』は、技術の進歩とそれに伴うチャレンジについて、今なお考えさせられる重要なテーマを持つ作品として、SF文学において特筆すべき地位を占めています。

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