神吉城

神吉城（かんきじょう）

神吉城は、現在の兵庫県加古川市、かつての播磨国印南郡に位置していた日本の平城です。この城は、別名を真名井城（まないじょう）あるいは奈幸子城（なこしじょう）とも称されました。現在、城跡の一部には土塁や空堀などの遺構が残されています。

沿革

神吉城は、室町時代に播磨の守護であった赤松氏の一族である神吉氏によって築かれたと伝えられています。築城者とされる初代城主は、赤松則村（円心）の末裔であり、播磨国明石郡の神出城主であった赤松範次（神出左衛門範次）です。範次は印南郡神吉の庄を領有した際に神吉城を築き、その子の神吉元頼が跡を継いで神吉氏を称しました。神吉城の縄張りは特徴的で、神吉の集落全体を城郭の区域として取り込み、中の丸、東の丸、西の丸、二の丸という四つの曲輪で構成されていました。中心部である中の丸には、規模は比較的小さかったとされますが、天守閣が存在したとも語り継がれています。歴史上では、室町時代の明徳の乱（一三九一）において、当時の城主が幕府方として功績を挙げた記録も残されています。

秀吉の播磨攻めにおける攻防

戦国時代末期、天正六年（一五七八年）二月、羽柴秀吉が毛利氏討伐のために加古川城で催した軍議において、播磨の有力国人であった別所長治と秀吉の間で対立が生じ、三木合戦が勃発します。この時、神吉城主であった神吉頼定は、同じく赤松氏の流れを汲む別所氏に味方することを決断しました。これにより、神吉城は秀吉勢と敵対することとなります。頼定は、周辺の野口城、志方城、高砂城といった別所方の諸城と連携して守りを固め、秀吉勢の侵攻に備えました。特に、頼定自身は三木の付城であった大村坂において秀吉勢を積極的に攻め立て、大きな勝利を収めたと伝えられています。

しかし、三木城の攻略を最優先とする秀吉は、長期の籠城戦を強いられている本隊を支援するため、戦略を転換し、三木城を孤立させるべく周囲の支城を各個撃破する方針をとりました。この作戦の下、まず同年四月六日に野口城が落城しました。そして、続く六月二十三日（新暦では七月二十七日）には、いよいよ神吉城に対する本格的な攻撃、いわゆる神吉合戦が開始されます。

神吉城に籠城する頼定側の兵力は約二〇〇〇人であったのに対し、秀吉勢は織田信忠、明智光秀、佐久間信盛、荒木村重といった織田家中の名だたる将たちを擁し、その総勢は約三万人にも達しました。圧倒的な兵力差にもかかわらず、神吉城は激しい抵抗を続けましたが、秀吉勢は力攻めだけでなく、調略をも用いました。佐久間信盛が中心となり、城主頼定の叔父にあたる神吉貞光（藤太夫）を内通させることに成功します。貞光は城内で頼定を暗殺したとされ、これにより城の防御体制は内部から崩壊しました。そして、同年七月十六日（新暦では八月十九日）、神吉城はついに落城したと伝えられています。

また、神吉城攻めの際にまつわる伝承として、秀吉が生石神社に対し、自軍の陣所として社殿を貸し出すよう要求したものの、当時の宮司に拒否されたため、怒った秀吉が生石神社を焼き討ちにしたという話が残されています。この時の生石神社の宮司は、神吉頼定の弟であったとも言われています。

現在の状況

神吉城の城跡は、現在、中の丸に法性山常楽寺（ほうしょうざんじょうらくじ）が、西の丸に真宗寺（しんしゅうじ）が建立されており、往時の面影は薄れています。しかし、常楽寺の裏にある墓地には、激戦の末に散った城主、神吉頼定の墓と伝えられる五輪塔がひっそりと祀られています。城跡の一部に残る土塁や空堀などの遺構が、かつてこの地が要害であったことを今に伝えています。神吉城跡は、地域の歴史遺産として「わがまち加古川六〇選」の一つ（No.四八）に選ばれています。

もう一度検索